銃撃戦
飛び交う、弾丸。
ひゅんひゅん
防弾するものなど一切持たない、研修生が弾丸の前に
飛び出して、叫ぶ。
研修生
ニンゲンのぉ、叫ぶ、言葉はぁ、弾丸のようにぃ、
もう一人、ベテランが飛び出して、
ベテラン
バッカ!伏せろ伏せろ。頭飛ばされたいのか!?
ガバっと、ふたりは腹ばいになった。
研修生
先生!伏せて隠れてる場合じゃありません!ニンゲンのぉ、
と、また立ち上がろうとするが、
ベテラン
おぉっと、落ち着け落ち着け意気込みは買うけど。
研修生
買いますか!?買えるほどの意気込みありますか!じゃもう弾丸とか全然怖くないっすね。弾き飛ばせる気合おかわりいきますか!?
ベテラン
おお、おぉ、だから落ち着け。興奮しすぎていいことひとっつもないから。
研修生
興奮しなきゃ詩人じゃないっすよ!先生、一発ヤツラにかましてやってくださいよ。
ベテラン
ん?
研修生
え?
ベテラン
かます武器はこっちの手元にないヨ?
研修生
は、何言ってんすか、自分たちの武器は言葉じゃないすか。ここは一発ドカンと、
ベテラン
え、何言ってんの?
研修生
え、何って、何!?
ベテラン
だって、山田くん、これはデモンストレーションじゃないよ。飛び交ってるのは実弾だよ?
研修生
いや、だから…。だからじゃないすか。先生、授業で、黄金の詩人は言葉は、どんなものにも打ち勝つって!言葉を磨いて、尖らせて、時に弾丸を跳ね返す武器になり、はらりと舞い落ちる花びらのように何十にも積み重ね、時に体を包むクッションのようになり、熱い甲子園球児が投げるストレートのように、心臓に投げ込めば命を吹き返らせる電気ショックだと、先生話しくれたじゃないすか。今、それを、やるべきっすよ。
ガガガガガガガ
銃撃戦はやまない。
ベテラン
…そうだよ。
研修生
ですよね!?
ベテラン
そうあるべきなんだよ。
研修生
なんですよね!?おーし、行くかぁ!
ベテラン
でもね山田くん。
研修生
ハァイ!
ベテラン
君、黄金の詩人じゃないからサ。君の言葉じゃ実弾飛び交いっぱなしだよ?
研修生
ナニブン、まだ研修っすからね…
ベテラン
知ってる?実弾って当たると、痛いんだよね。
研修生
あ、たった。こと、あるんすか?
ベテラン
うン。研修中にね。かましてやろうと、飛び出してね。ココ
研修生
ドタマ、直撃…すか…
ベテラン
まだね。あるよ。ここに。めりこんだ弾丸。
ガ ガ ガ ガガガガガガガガガ
研修生
あ。分かった。先生、そんな話しても、自分、絶対、ヒよりませんから。
ガガガ
研修生
言葉は弾丸で、
ガガガ
研修生
言葉は花びらで、
ガガガ
研修生
言葉は流れる水だって、
ガガガ
研修生
先生から教わったんすよね。
ガガガ ガガガ
ガガガガガガガガガ
研修生は銃撃戦の真ん中へ歩いていく。
丸腰、唇に言葉
研修生
ニンゲンのぉ 叫ぶ言葉はぁ、弾丸のようにぃ、放物線をぉ、描く。狙いを定める、今、そこへ、届け…
銃撃戦は、止む事はない。
研修生の言葉は、飛び交って消える。
ベテラン
そうなんだ。そうありたい。そう、あるべきなんだよ。
おしまい