- 都会の道を、一人の男が歩いている。
カッカッカッと足早な音。
その後ろから七色の姿をした少女がついてくる。
トントントンと軽やかな音。
男が足を速めると、少女の足音も速くなる。
カッカッカッカッ。トントントントン。
男がピタッと足を止める。少女もピタッと足を止める。
- 男
- ・・なんで、ついてくるんだ?
- 少女
- なんで、そんなに急いでるの?
- 男
- それは急ぐ用事があるからに決まってるだろう
- 少女
- ふーん(不満げな様子)
- 男
- わかったかい。もう、ついてくるなよ
- カッカッ。トントン。カッカッ。トントン。ピタッ。
- 男
- だからなんで、ついてくるんだ?
- 少女
- だからなんで、ついてきちゃいけないの?
- 男
- 第一に君と僕はあかの他人だ。第二に僕はとても急いでる。
君の相手をしてる暇はない。それに君は、その・・体が七色じゃないか!
- 少女
- あたりまえじゃない
- 男
- ・・そのあたりまえってのは『あかの他人』のくだり?
- 少女
- だってわたしは『とってもステキな七色乙女』だもの
- 男
- とってもすてきななないろおとめ・・?
- 少女
- 私の体は世界中のあらゆるステキなものでできているの
- 男
- やれやれ、オトナをからかうんじゃないの。まったくどこの子だ
- 少女
- ふーん
- 男
- なんだよ
- 少女
- あなたは、とってもつまらないものでできているのね
- 男
- はいはい
- 少女
- わたしの水色の目は涙でできていて、紫の髪はセントポーリアでできているの。
とっても美しいのよ
- 男
- そうだね(投げやりな口調)
- 少女
- わたしの赤いほっぺたは愛でできていて、黄色いお腹は卵の黄身でできているの。
とっても儚いのよ
- 男
- あのねぇ
- 少女
- わたしの桃色の手は母さんの優しさでできていて、緑の足は芝生でできているの。
とっても果てしないのよ
- 男
- もういいかな。先を急ぐんだ。じゃあね
- 男は歩き出す。少女の足音はついてこない。
カッカッカッカッ、カッ、カッ・・(速度が落ちる)ピタッ。
- 男
- ・・あのさ。じゃあ君の、その青い背中はなにでできてるの?あれ・・おぅい
- 男が振り返ると、七色の少女はもうそこにはいない。
- 男
- なんだ?からかわれたかな・・あーあ、すっかり遅刻だ。
まぁいい、どうせたいした用事じゃないんだ
- 男はまた歩き出す。
しかし、今度は散歩をするかのようにどこか穏やかな足音である。
カツ。カツ。カツ。カツ。ふと空を見上げ、足を止める男。
- 男
- あぁ、うろこ雲だ。すっかり風も涼しくなってきたなぁ
- う~んと、伸びをする男。
- 男
- それに、なんてステキな・・青い空だ
- とってもステキなものはいつもすぐそばにあるのにそれに気づくのは、なぜかいつも限られた人間だけ。『とってもステキな七色乙女』に出逢えた、ほんの限られた人間だけ。
- おしまい