- 子供
- とーちゃん。
- 父
- なんだ?
- 子供
- ご飯、もうそろそろ炊けたかも。
- 父
- 湯気は?
- 子供
- もうでない。
- 父
- じゃあ、そのお箸を飯ごうにあててごらん。
- 子供
- あててどうするの?
- 父
- 箸にクツクツって感じが伝わる?それともシーンとしてる?
- 子供
- ん・・・すこうしクツクツしてる。
- 父
- じゃあ、もうちょっとだ。
- 子供
- シーンとしたらOKなんだ。
- 父
- そ、シーンとしたらできあがり。
- 子供
- おウチでもわかればいいのにね。
- 父
- おウチなら炊飯器で米を炊くだろ。
- 子供
- ううん、玄関のドアにお箸をあてると、かーちゃんの機嫌がわかるの。
- 父
- クツクツしてたらまだ怒ってるってか。
- 子共
- うん!
- 父
- おもしろいこと言うなイツミは。ははは。
- 子供
- へへへ。
- 父
- どうだ、かーちゃんの様子は?
- 子供
- まだ、すんごくプリプリしてるよ。
- 父
- マジかよ・・・。
- 子供
- さっきお掃除してたけど、怒ってるととっても手早いんだ。
- 父
- 確かに。洗濯物干すのとかも早いもんな。
- 子供
- ちょーヤダよ。かーちゃんが怒ってると空気悪いんだもん。
- 父
- ごめんな。
- 子供
- とーちゃんが謝んなくていいじゃん。
- 父
- だってほら、かーちゃんだけが悪いわけじゃないから。
- 子供
- なんで喧嘩してるの?
- 父
- イツミ、飯ごう、まだクツクツしてるか?
- 子供
- あ・・・シーンてしてる。
- 父
- それじゃあ、火から降ろすぞ。火から降ろしたら、
- 子供
- ひっくり返すんだっけ?
- 父
- そう、天と地をひっくり返して置いて、そのまましばらく蒸らす。
- 子供
- とーちゃん、台所からこれパクってきた。
- 父
- パクるってお前なぁ、おおお!
- 子供
- サンマのかば焼きの缶詰。
- 父
- ナイスチョイス!
- 子供
- とーちゃんの子ですから。
- 父
- これを、アツアツのご飯の上に乗っけて食うと、最高なんだよな。
- 子供
- 教えてくれないとあげない。
- 父
- え?
- 子供
- 喧嘩の原因。
- 父
- ・・・とーちゃんの長年の夢ってのがあってさ。
- 子供
- どんな夢?
- 父
- それは言えない。
- 子共
- なんで。
- 父
- イツミを味方につけたって、かーちゃんもっと怒るから。
- 子供
- もうさ、かーちゃんが怒ってたって、家に入ってくればいいじゃん。
- 父
- そうはいかないよ。
- 子共
- じゃあ、こんなおウチの庭でキャンプなんかせずに、どっかに隠れちゃうとか。
- 父
- そんなことしたら、かーちゃんもイツミも心配だろ。
- 子共
- ・・・こんなこといつまで続けるの?
- 父
- かーちゃんがとーちゃんの夢に協力してくれるまで。
- 子共
- 会社は?
- 父
- ここから行くさ。このテントん中にスーツもカバンも持ちこんである。
- 子共
- わかった。
- 父
- って?
- 子共
- イツミ、かーちゃんにもお箸の役割頼まれたの。
- 父
- とーちゃんのこと探ってこいってか?
- 子共
- うん。・・・まあ、とーちゃんも頑張ってよ。
- 父
- 飯、食ってかないの?・・・あ、イツミ、お前、缶詰置いてけよ。
- 子共
- やーだよ。
- 終わってまた始まる