蝉の鳴く音。
「暑い一日・・・・・・自らの熱を冷ますかのようにジリジリと焦げ落ちていく夕暮。
 近所のコンビニで、とにかく目に付く缶ビールという缶ビールをカゴに放り込む。
何してるんだろ、ビールやスナックやアイスでカゴが
一杯になっていく・・・・。」
「深呼吸して、チャイムを押す。」
ピンポーン。
「あたしの心の重苦しさとは対照的に軽い音。」
ガチャリ。ドアが開く音。
「・・・・・いらっしゃい。」
「あ、うん・・・・・・・これ」
・・・・・・・・・・
女、コンビニの袋を差し出す。
男、受け取りながら中身の重たさで女の気持ちを察するようにじっと見つめる。
「・・・・何?」
「・・・・・なんで?」
「なんでって・・・・ダメなの?」
「いや・・・ダメだとかの前に、どうしたの?」
「出てってくれって・・・・・・。」
「・・・・誰が?」
「彼氏。」
「嘘!?」
「ホント。」
「で、お前・・・・・素直に了解しちゃったわけ?」
「うん・・・・・・・」
「どうしてだよ・・・・・好きなんだろ彼氏。」
「うん・・・・・・。」
「なに、それ?」
「最近・・・・おかしいのよ、あたし。」
「前から、おかしいって。」
「そういうのじゃなくって、彼と一緒にいると、水槽の中にいるみたいなの。」
「スイソウ?」
「うん、水槽・・・・時間がゆらゆら流れてて。
 静かで涼しいんだけど・・・・・気付いたら、彼は水槽の外にいるの。
 だけど、ちっとも見てくれない・・・・・前は一緒に泳いでた気がするのに。
 なーんか、飽きられちゃった魚みたいなんだよね。」
「寂しい熱帯魚ってやつ?」
「彼氏といると空耳っていうのかな・・・・・ザザーって潮騒みたいな音が
聞こえてきちゃって・・・・・たぶん、無言の会話が軋んでるのかな。」
「・・・・・・・・。」
「気付いたら、部屋から出ちゃってて・・・・。
 そうだ、熱帯魚飼ってるんでしょ・・・・前に話してたじゃない、見せてよ。」
「えーと・・・・それが。」
「(遮るように)あれでしょ・・・・あの、大きい水槽。」
女、リビングの水槽を覗き込む。
「・・・・あれ?」
「ああ、今は空っぽ・・・・・なんか、寂しいだろ?」
「ホント・・・・・寂しいね。」
「ごめん・・・・」
「なんで、あやまるの?」
「いや、なんとなく・・・・・大丈夫?」
「え?」
「その・・・・空耳みたいなの聞こえるのかな、まだ。」
「正直いうと、外の音も聞こえなくなっちゃうぐらい・・・・・ザザーって鳴り響いてんのに・・・・・・あなたの声がハッキリ聞こえちゃうのなんでなのかなあ。」
「えーと・・・・・・」
「飲もっか。」
「うん・・・・・飲もう。」
 
女が笑うので、つられて笑う男。 女、ビールを男に手渡す。
2人、缶を開ける
2人
「乾杯。」
2人で空っぽの水槽を眺める。