- 打ち寄せる波の音。
- 男
- あそこが、本州の最南端、潮岬(しおのみさき)。そこから突き出している魔女の鼻みたいな岩場は、クレ崎って呼ばれてる。
- 女
- きたきたきたぁ・・・でも、もっと、にぎやかな場所かと思ってました。
- 男
- 東西南北の先端の中では結構にぎやかな方だよ。みやげもの屋もあったでしょ、ほら、観光タワーなんかもあるし。
- 女
- エースさん、東西南北の端っこ全部制覇したんだ。
- 男
- お、おう!
- 女
- キャー、かっこいい!
- 男
- いやいや、ピアちゃんのこれからすることに比べたら大したことないですって。
- 女
- エースさんのお住まい金沢でしょ。こんな遠いところまですみません。
- 男
- どうしても見届けたかったから。
- 女
- ・・・はい。
- 男
- あ、ピアちゃんのことネットラジオでちょこっと紹介したいから、録音に協力してもらっていい?
- 女
- お!い、いいですけど、うわ、緊張するなぁ。
- 男
- じゃあ、いくよ・・・今日は、「岬めぐり」のコミュニティサイトで知り合ったピアちゃんと、初めてオフラインで会いました。こんにちは!
- 女
- こんにちは、ピアです。駅でエースさんに合流して、今、本州の南の端っこに連れて来てもらいました。
- 男
- ピアちゃんはここを出発点として、本州をぐるりと自転車で一周するんだよね。
- 女
- あ、はい。
- 男
- 岬好き、端っこ好きの僕としては、ヨダレだらだらもんの旅だ。
- 女
- この旅のために、三年間めいっぱい稼ぎました。
- 男
- そうそう僕の地元にもいい岬がたくさんあるから、楽しみにしといてね。
- 女
- わ、案内してくれるんですか?
- 男
- これも何かの縁ですから。
- 女
- 金沢に辿りついたら、ちょうど本州を半分回ったことになるのかな。
- 男
- ほんとだ、そうなるね。
- 女
- いつ辿りつけるか、まだ予測がつかないですけど。
- 男
- 待ってるからね。では、最後に、今のお気持ちを、どうぞ。
- 女
- えと、わからないことだらけで今は不安でいっぱいですけど、一周してまたここに元気で戻ってきたいです。
- 男
- それでは気をつけて。
- 女
- いってきます。
- 男
- はい、オッケー、ありがとう。
- 女
- こんなんで良かったんですかね。
- 男
- いいよ、いい。ちょっとカタいところが生な感じでいい。
- 女
- エースさん、聞かないんですね。
- 男
- ん・・・なんのためにこんなことするの?とか。
- 女
- はい。
- 男
- 端っこが好きだからじゃないの。
- 女
- んと、そうだけど・・・。
- 男
- そうじゃないんだ。
- 女
- 聞かれるんです。母さんにもちゃんと説明してって、今朝も泣かれたし。ほんとなんて言ったらいいのか・・・生きているってことを実感したいっていうか・・・自分でもちゃんとした答えがあるわけじゃないから・・・。
- 男
- 考えて、考えて、わからなくっても考えて、たまーに投げ出して、また考えて、そしたら答えがみつかるかもしんない。
- 女
- はい。当面は、端っこが好きだから、で押し通します。
- 男
- おう。じゃあ、ほらもう出発して。
- 女
- え、でもせっかく、
- 男
- いいの、見送りに来たんだから。のんびりしてたら、日が暮れちゃうよ。
- 女
- あの、
- 男
- うん。
- 女
- 旅を始めて良かったって、エースさんのおかげで、今、そう思えてます。
- 男
- いい旅をね。
- 女
- じゃあ・・・行きます。
- 女は、自転車に乗り、旅立っていった。
- 男
- こちらこそなんだよ。ピアちゃんのお陰で、ネットでしか見たことなかった場所へ、こうして初めてやってこれたんだから。
- 終わってまた始まる