- 昼下がり。
若者たちの集う街。アメリカ村みたいな。
手持ちぶさたな時間を持て余している若い男。
道端の、街路樹の下で。
- 若い男
- …まだちょっとさぶいなあ。
- ライターでタバコに火を点ける。
ひと息、大きく吸って。
- 若い男
- …やっぱり、タバコやめななあ。
- 道行く女性たちや眼前のショップの中を見るともなくながめている。
- 若い男
- なんやあのオンナ、今どき茶髪てはやらへんのちゃうん。いや、あそこまでいったら、金髪か。金髪やのに眉毛黒いて、おもいっきりヘンやで。濃い化粧やなあ。なんであんなに目のまわりまっ黒にせなあかんのやろ。…なにごそごそ探してんねん。買いたいもんあるんやったらはよ買えよ。スカート短いなあ。よおけ足だして、だれにサーヴィスしてんねん。まださぶいやろ。花冷えがするて、だれか言(ゆ)うてたなあ。花冷えか。いや生物学的に考察するに、て何者やねんオレ、あれはさぶいとかさぶないとか、つまりカンケイないねんな、あれは、つまりあれはやな、オトコの視線を意識してるねん。花冷えものともせず。…はーっ。
- と、たいくつのため息。
- 若い男
- …ピンクのミニスカート、つまりそれは婚姻色やな、(ナレーション口調になり)
婚姻色、鳥や魚や両生類など、繁殖期に限ってカラダの表面に現れる美しい色彩。もちろんそれはオスはメスを、メスはオスを誘惑するために。…ピンクのミニスカ―ト、サクラの花びらと同じ色やな。もう散ってしもたで。散って、しおれて、踏みつけられて、風に舞い踊らされて…。
- 黄色い声でおしゃべりしながら制服の女子高生のグループが若い男の前を通り過ぎてゆく。
- 若い男
- こいつらはピカピカの女子高生とはちゃうな。なんでかちゅうと、ブレザーの制服着とっても、もうすでに目のまわりとクチビルに婚姻色が現れはじめている。あ、ピンクのミニスカートがしゃがんだ。あかんやろ、あの格好は。あっ、オトコが声をかけた。作戦成功か、なんや店員か……。
- ショップ内。
- 若い女
- こっちかな、うーん、それともこっちの方が……。
- 店員
- フォーマルなスーツに合わせるのでしたら、こちらの方が無難かと思いますが。
- 若い女
- うーん、こんなん締めたことないヒトやから…。んもう何してんねん。ちょっと待って下さいネ。
- 店の外の、若い男に向かって。
- 若い女
- もうタバコ吸い終わったんやろ。はよう来てや。ネクタイ合わせてみるから。
- 若い男
- はいはい、今すぐ行きます。あっという間やな、サクラ散ってしもたら、もう何の木かわからへん。
- 街のノイズが残る。
- (了)