- 高層ビルディングの群れ
車ばかりが通る。
交差点は休まない。
そんな都会の片隅の、公園。
ブランコに乗る、二人。
ギーコ、ギーコ、ガシャン、と、どちらかがブランコから飛び降りた。
- ハジメ
- 決めた。あたし、大木切る人になる。
- オワル
- はっ!?
- ハジメ
- 大木切る人だよ。なんっていうんだっけ、そういう職業、斧もってほーいほーいって
感じの。で、その人たちは毎日庭で野菜とか育てて暮らしてるのね。
で、年に一本だけ大木を切り倒すのが仕事なの。すごくない?
山の中で、星と一緒に眠って、太陽と一緒に目覚めるの。すごくない?
- オワル
- えらい優雅じゃん。
- ハジメ
- 優雅じゃないよ、自然の中で暮らすんだから。けど贅沢だよね。命と一緒に生きてるん
だからさ。あたし思うのよ、これからは、大木だよ。クルね。流行るよ。
大木ブーム、若者殺到するよ。その前に、なっちゃうの。厳しい倍率になる前に、
その大木切る自然生活者になっちゃうんだよ。
- オワル
- 暮らすの?山ン中で?
- ハジメ
- そう。
- オワル
- テレビとかある?
- ハジメ
- ないわよ。ん?あるかもしれないけど、必要ないじゃない。
窓を開ければ、山、空、草原、実った野菜の庭。それだけで十分じゃない。
- オワル
- 近くにCDショップないんだろ?
- ハジメ
- 小鳥が音楽奏でてくれるわよ。
- オワル
- どこで服買うの?ユニなんとかあるの?
- ハジメ
- ないよ、山ン中なんだから。
- オワル
- ヒートテックないと真夏でも寒いんじゃん?
- ハジメ
- 買い物は時々山おりて町にくればいいんじゃないの?
- オワル
- 急に病気になったらどうすんだよ?救急ないじゃん。
- ハジメ
- そこまで知らないわよ。
- オワル
- なりたいんだったら、詳しく調べないと。
なってから、やっぱりヤダーっつっても駄目だよ。
年に一本大木切り倒さなきゃならないんだろ?
- ハジメ
- そ、そうね。
- オワル
- で、その採用試験ってどんなの?
- ハジメ
- へ?
- オワル
- 履歴書どこ持っていけばいいの?
- ハジメ
- え、
- オワル
- 資格何がいるの?
- ハジメ
- …えーと、
- オワル
- 駄目じゃん、ちゃんと下調べしとかないと。
- ハジメ
- う、うん…
- オワル
- あ。俺、次の面接だから行くわ。
- ハジメ
- あぁ、あたしも次あるんだった。
- オワル
- え、大木切るんじゃないの?
- ハジメ
- え?
- オワル
- ならないの?
- ハジメ
- …なれないよ。
- オワル
- ん?
- ハジメ
- なんにも、なれないよ。あたし。ずっと駄目だもん。まだ一個も、内定決まらないもん。
- オワル
- 俺もだけど。
- ハジメ
- だから、もう、山にでも、行くかって、
- オワル
- あのさ、それってスゲー失礼じゃない?
- ハジメ
- うん。そう思う。たぶんあたし一日持ちゃしないと思うもん。
- オワル
- 頑張るかなー、30社目。
- と、オワルもブランコから飛び降りた。
- ハジメ
- あたし40社目だよ。
- 二人は、少し笑った。
- オワル
- あーぁ、早く春こねーかなぁ。
- 二人は駅への道を走る。
交差点は休まない。
町は動き続けている。
ブランコが風にゆれた。
- おしまい