- 男
- 1、2、3、4、
- 女
- カラダの弱い子供だった。
- 男
- 9、10、11、
- 女
- 病に関してだけは流行に敏感で、とにかくなんでも片端から患った。インフルエンザから結膜炎まで。
- 男
- 21、22、23、24、
- 女
- 強くなりたい。天井の木目を見つめながら、いつもそう願っていた。
- 男
- 60、61、
- 女
- 年齢を重ねるごとに人並みの丈夫さを持ち、大人になった私はすっかり忘れていたけれど、恋人が去り、風邪をひきこんだ。熱に浮かされながら、久々に思い出した。天井を見あげていた私を。
- 男
- 98、99、100、
- 女
- 風邪は癒えたが、心はグズグズとわだかまっていたある日のこと。スポーツ用品店の前を通りかかると、【富士山に登ろう!】というポップが視界に飛び込んだ。日本で1番高い場所、そこに立ってみたい。ムクムクとそんな衝動が湧いた。そこに立ってあいつの事を見下げてやろうじゃないか。うそ。ぽっかりと空いたその心の穴に、何かを埋めなくては前へ進めなかったのだ。
- 男
- 233、234、235、
- 女
- しかし富士山頂への道はそんなに甘くなかった。1度目の登山は8合目でリタイア。2度目は9合目で断念。2度とも高山病で頭痛、めまい、吐き気に襲われた。慣れない山道で足腰もガタガタになった。
- 男
- 304、305、306、307、
- 女
- しかし富士山頂への道はそんなに甘くなかった。1度目の登山は8合目でリタイア。2度目は9合目で断念。2度とも高山病で頭痛、めまい、吐き気に襲われた。慣れない山道で足腰もガタガタになった。
- 男
- 304、305、306、307、
- 女
- 2度目の失敗から1年、私は25階にある会社へ階段で登った。今度こそあの場所へ立つために。
- ■
- 男
- その人を見かけたのは会社のエレベータがいつになく混み合ったその朝。聞けば一機が故障し調整中。健康診断を来週に控え、少しダブついてきた腹周りも気になっていた。エイっとばかりに、階段を上る。5階で上着を脱いだ、10階で汗が噴き出した、15階でへこたれた。はあはあと肩で息をしている僕に声をかけ、追い越していく規則的な足音。
- 女
- 「おはようございます。」
- 男
- 見上げるとその人だった。窓のない無機質な空間に、緑の風が吹き抜けたようだった。
- ひばりが高い空で鳴いている。
- 男
- その日から階段ルートで出勤をはじめた。会社に辿りついた頃には、シャワーを浴びたように汗をかいた。先輩には笑われ、女子社員にはヒカれた。着替え用のワイシャツも持って行くことにした。そこまでしたのは、自分の腹周りを気にしたから、じゃあない。
- 女
- 「今年の夏、3度目のチャレンジをするんです。」
- 男
- 親しげに言葉を交わすようになった。そうして、やっぱり僕は汗だくなんだけれど、もう肩で息はしなくなったその頃、1階で彼女を待ち構えて聞いた。
- 女
- 「階段の数?」
- 男
- 「ええ。数えたことあります?自分が何段登ってるか。」
- 女
- 「そんなの考えたこともなかった。」
- 男
- 「時々数えてみるけど、毎回違うんですよね・・・。」
- 女
- 「一緒に、数えてみます?」
- 男
- 「はい!ぜひ」
- ■
- 女
- 強くなりたくて、ゴールに辿りつきたくて、ずっと届かぬ先ばかりを追いかけてきた。でも、今こうして途中にいることが、本当は一番楽しく愛おしい時間なのかもしれない、と私は思ったのだった。
- 男と女
- 408、409、410、411・・・・。
- 遠くの空でひばりが鳴いている。
- 終わってまた始まる