- 恋
- 恋なんて。ばかばかしい。あれはただ単にお互いの自由の侵略なのよ。そんなもののために一喜一憂するなんて。子供のやることです。だって滑稽でしょ。そっっっんなことで泣くかコジレルのか、みたいな。だからあたしはね、「自由」を部屋の金庫の中にしまって鍵かけておこうと思うの。
- キィバタン。
思い鉄の扉が閉まる。
カチカチカチ、カチカチカチ。
金庫のダイヤルをまわして、閉じ込める。
- 恋
- だって、誰にも侵略されたくなんだから。あたしは自由に考えたいこと考えるの。そう、したいのに、なのにやっぱり、
- 泥棒
- ダイヤルの番号は、
- 恋
- 毎晩毎晩、大泥棒が盗みにやって来る。
- 泥棒
- 右に9、
- 恋
- 金庫のダイヤルカチカチまわして、
- 泥棒
- 左に6、
- 恋
- あたしの自由を奪いにやってくる。
- 泥棒
- 右に4、
- 恋
- するりと金庫の鉄の扉をすり抜けて、
- 泥棒
- 左に1。
- 恋
- なんで暗礁番号知ってるんだろ!?
- 泥棒
- クルシイ?胸が、ってやつ。分かりやすいんだから。
- ギギギギギギ、重い金庫の鉄の扉が開かれる。
- 恋
- ああ!またやられた!
- 恋は苦しい溜息をつく。
- 恋
- ヤワすぎるんだわこの錠前が。もっと頑丈で、もっと高度なものを。だからあたしは旧式ダイヤルをやめて、最新金庫に買い換えた。
- 恋は金庫業者に声をかけた。
- 恋
- あ、その部屋の一番奥に置いてください。どうも、ご苦労さまです。
- ドン、と新しい金庫は備え付けられた。
- 恋
- ふふふ。
- こみあげる不敵な笑い。
- 恋
- 結構お値段はるじゃない。でもこれなら完璧。鉄の要塞、絶対破れない錠前、だってパスワードだ!
- ピ、ピ、ピ、と恋はパスワードキーを打つ。
- 恋
- 数字は分かり安すぎたのね。パスワードは無数よ。言葉は無限よ。あたしの、言葉は、絶対分からないんだから。あたしの言葉を捜してみなさいよ。やれるものならやってごらん。
- 泥棒
- 新しい金庫の、
- 恋
- 毎晩やってくる、
- 泥棒
- パスワードは、
- 恋
- 大泥棒。
- ピ
ピ
ピ
ピ
- 泥棒
- 簡単だね。
- ピーン、
ギィィィィィと最新金庫はいとも簡単に開く。
- 恋
- なんで?
- 泥棒
- だから、分かりやすいんだって。顔に書いてあるよ。
- 朝をつげる目覚ましのベルが鳴り響きはじめる。
カチリ、と目覚ましをとめる恋。
- 恋
- 恋なんて。
- 苦しい溜息をついた。
- 恋
- ばかばかしい。夢も自由にならないなんて。夢の中にまで侵略してくるなんて。
- 恋はふと考えて、
- 恋
- …あたし、どんな言葉にしたんだろ…パスワード…4文字だったなぁ。
- 夢の中、泥棒が解読した夢の言葉は
「ダイスキ」
大変分かりやすい。
- おしまい