恋なんて。ばかばかしい。あれはただ単にお互いの自由の侵略なのよ。そんなもののために一喜一憂するなんて。子供のやることです。だって滑稽でしょ。そっっっんなことで泣くかコジレルのか、みたいな。だからあたしはね、「自由」を部屋の金庫の中にしまって鍵かけておこうと思うの。
キィバタン。
思い鉄の扉が閉まる。
カチカチカチ、カチカチカチ。
金庫のダイヤルをまわして、閉じ込める。
だって、誰にも侵略されたくなんだから。あたしは自由に考えたいこと考えるの。そう、したいのに、なのにやっぱり、
泥棒
ダイヤルの番号は、
毎晩毎晩、大泥棒が盗みにやって来る。
泥棒
右に9、
金庫のダイヤルカチカチまわして、
泥棒
左に6、
あたしの自由を奪いにやってくる。
泥棒
右に4、
するりと金庫の鉄の扉をすり抜けて、
泥棒
左に1。
なんで暗礁番号知ってるんだろ!?
泥棒
クルシイ?胸が、ってやつ。分かりやすいんだから。
ギギギギギギ、重い金庫の鉄の扉が開かれる。
ああ!またやられた!
恋は苦しい溜息をつく。
ヤワすぎるんだわこの錠前が。もっと頑丈で、もっと高度なものを。だからあたしは旧式ダイヤルをやめて、最新金庫に買い換えた。
恋は金庫業者に声をかけた。
あ、その部屋の一番奥に置いてください。どうも、ご苦労さまです。
ドン、と新しい金庫は備え付けられた。
ふふふ。
こみあげる不敵な笑い。
結構お値段はるじゃない。でもこれなら完璧。鉄の要塞、絶対破れない錠前、だってパスワードだ!
ピ、ピ、ピ、と恋はパスワードキーを打つ。
数字は分かり安すぎたのね。パスワードは無数よ。言葉は無限よ。あたしの、言葉は、絶対分からないんだから。あたしの言葉を捜してみなさいよ。やれるものならやってごらん。
泥棒
新しい金庫の、
毎晩やってくる、
泥棒
パスワードは、
大泥棒。



泥棒
簡単だね。
ピーン、
ギィィィィィと最新金庫はいとも簡単に開く。
なんで?
泥棒
だから、分かりやすいんだって。顔に書いてあるよ。
朝をつげる目覚ましのベルが鳴り響きはじめる。
カチリ、と目覚ましをとめる恋。
恋なんて。
苦しい溜息をついた。
ばかばかしい。夢も自由にならないなんて。夢の中にまで侵略してくるなんて。
恋はふと考えて、
…あたし、どんな言葉にしたんだろ…パスワード…4文字だったなぁ。
夢の中、泥棒が解読した夢の言葉は
「ダイスキ」
大変分かりやすい。
おしまい