ポキンと小さな音がして、足元を見ると、
骨のカケラがひとつ、ひからびてありました。
「こんな大きい象にふまれるとは思わなかった。」
と骨が言ったので、ぼくはあわてて答えました。
「考え事をして、うっかりぼんやりしてしまいました、ごめんなさい。」
「それじゃあしかたないわね。それにしてもこんなところに象だなんてめずらしい。
散歩かなにか?」
「いえ、探し物をしてるんです。長いことずっと。歩いて歩いていつのまにかここにたどり着きました。」
「探し物。」
「今度は象なので、どうやらずいぶん遠くまで来れたみたいです。」
「今度は?」
「はい、ぼく今は象だけど、もっと昔はキリンでした。」
「なんでまた。」
「キリンだったら、長い首でどこまでも見渡せるし、探し物が見つかるんじゃないかと思って。」
「なるほど。」
「オオカミだったこともあります。すばやくて鼻がきくし、仲間もいるしね。」
「それは心強いね。」
「せまくてちいさな場所を探そうと思って、ネズミにもなりましたし、より速く移動できるようにとチーターにもなりました。でも残念ながら探し物はいっこうに見つからないまま、ずいぶん時間が過ぎてしまって…。」
「ねえ、その、探し物って何?」
「それが…忘れちゃって。」
「忘れちゃったの?」
「あれこれいろんな方法でいろんなところを探してるうちに、一体何を探してたのか
わからなくなってしまったんです。困ったことに、探し物をしながらそれが何だったのかを探している、というわけなんです。」
「思い出せないのね。」
「だから今度は、できるだけ長く生きて、ぼくが探してるものが何なのかを探すために、象になってこうやって歩き続けているんです。」
ぼくは足元の骨のカケラに顔を近づけました。
「あなたを思わずふんでしまって、ごめんなさい。」
カケラは粉々になったまましばらく黙っていました。
小さく乾いた白いカケラは、土にまじって今にも見えなくなりそうでした。
「あなたがね、今ふんでいるのは、私のアバラ骨。」
「え?」
「思い出した。私もずっとここで待っていたんだった。」
「何を?」
「それはね、私の…」
ぼくがぼくの大きな足裏を持ち上げたその時、風がひとときふいたかと思うと、骨の最後の一片をさらっていきました。ちりになって舞い上がったその粒はぼくの目をかすめ、ひんやりとした痛みに、ぼくは思わずまぶたをとじました。
おわり