- 険しい山道をガイド(おじさん)に先導されて女が登ってゆく。
周囲にはトレッキングシューズがなる音と、女のあえぐような息づかい響く。
女はすでに息切れしていた。
- 女
- ハーハーハー。
- そんな女にガイドは情け容赦なく、方言をぶちかます。
- ガイド
- (以下はわかる日本語で表記しますが、演者さんによってメチャクチャな方言にかえてください)はい、がんばってくださいね。足元気をつけてください。もうあと一息で縄文杉つきますんでね。もうちょっとです。
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- わたしらね。高校、修学旅行は屋久島でここの縄文杉にいった。その頃はここらへんもこんな整備されとらんでね。今よりもっと大変やったんよ。(笑う)
- けれど女にはガイドが何を言ってるのか分からない。
ぶっ倒れそうに苦しいが、一応愛想笑いをしておく。
- ガイド
- おたくん所にはコアラいますか?
- 女
- ??
- ガイド
- コアラ。
- 女
- コアラ?
- ガイド
- 屋久島にはね。コアラもいますよ。
- 女
- ホントですか?
- ガイド
- ほんとほんと。ほらあそこの木の幹んとこ、コアラに見えるでしょ。
- 女
- あ。
- ガイド
- ね。
- しばしコアラを見る間。
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- あと一息で縄文杉ですからね。
- また黙々と登る二人。女の息づかいはさらに激しい。
- ガイド
- はい。右側ごらんください。
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- あのでっかい杉。あれで樹齢1500年といわれております。
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- あの杉。なんて名前かわかりますか?
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- あれ太り過ぎって呼んでます。(笑う)
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- もう一息で縄文杉ですよ。
- また黙々と登る二人。女の息づかいはさらにさらに激しい。
- ガイド
- はい右側ご覧ください。
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- あちらの二本の大きな杉。途中で二つがくっついちゃったんですね。
だからあの杉は、
- 女
- フーフー。
- ガイド
- そうです。あの杉はフウフ杉って言います。
- 女
- ???
- ガイド
- ウソですよ。ほんとは夫婦(メオト)杉。おたくがあまりにもフーフー言ってるから(笑う)
- 女
- ハーハーハー。
- ガイド
- はいあと一息で縄文杉ですからね。
- 女
- あの、
- ガイド
- はい?
- 女
- さっきからずっとあと一息って。いつになったら縄文杉見れるんですか?
わたし、けっこう限界なんですけど。
- ガイド
- (しっかりした標準語で)あのね。文句言ったって、縄文杉が歩いてきてくれるわけじゃないんです。屋久島は百貨店でもレストランでもありません。あたなの都合は通用しませんよ。限界だとおっしゃるなら、ここで諦めますか?
- 女
- …。そこだけ標準語なんですね。
- ガイド
- ええ。
- 女
- がんばります。
- 再び歩き出す。
- ガイド
- (再び方言で)あと一息なんでね。縄文杉がまってます。
- 女
- はい!
- おわり