- 男と女がタクシーに乗って、駅に向かっている。
- 男
- 間に合うかな?
- 女
- あと二分。
- 男
- 降りたら急がないとヤバいよな?
- 女
- (タクシーの運転手に)そこ左入って下さい。
- 男
- え?
- 女
- 近道だから。走る準備しといて。
- 男
- なんか悪いな、最後まで。
- 鬼
- え、普通に営業やってますから。
- 女
- 新しい仕事がんばってね。
- 男
- 落ち着いたら、あいや、電車乗ったらメールするし。
- 女
- 切符用意しときなよ。
- 男
- ・・・なんだかんだで、この街でおまえと過ごした二年間、楽し・・・
- 踏切の音
- 女
- 来る来る、もう来るって!
- 男
- え、もう!?
- 女
- (タクシーの運転手に)もっとスピード出してください!
- 男
- 無茶言うなおまえ、(タクシーの運転手に)すいません。
- 女
- あんたが寝坊するからこうなってんでしょ。
- 男
- 起こしてくれって言ったじゃん。
- 女
- あーもうここでいいです!お釣りいらないんで。早く!
- タクシーを降りて、電車のホームに猛スピードで走り始める男と女。
- 男
- ・・・なんでおまえも走ってんの!?
- 女
- いいじゃん別に!走ったっていいじゃん。
- 男
- ホームまで見送ってくれんの!?
- 女
- 遅い!。片方荷物貸して!
- 男
- なあ!
- 女
- なに!?
- 男
- ずっと思ってたんだけどさ、あの部屋、二人で住むには狭かったよな!
- 女
- なに言ってんの!?
- 男
- 狭くなかった!?
- 女
- 狭かった!六畳しかないってどういうこと?
- 男
- 選んだのおまえだろ?
- 女
- なに、あたしのせい!
- 男
- そうじゃなくてさ。
- 女
- やめようよこういうの。昨日みたいな空気になるでしょ!
- 男
- 俺さ!昨日さ!もっと思い出話したかったんだよね!
- 女
- うわ、未練がましい。
- 男
- これで最後って、気持ち悪くない?
- 女
- ちょっとね!
- 男
- 荷物返して!
- 女
- なんで。
- 男
- 改札!
- 女
- だいじょうぶ、切符あるから。
- 男
- えっ。
- 女
- 止まらないでよ!
- 男
- おまえ。
- 女
- 入場券だからね、言っとくけど。
- 男
- 用意してくれてたのか。
- 改札を通り抜ける二人。
- 女
- 来てる!電車着く!
- 男
- おいおいおい、今、ヒュー・ジャックマンとすれ違わなかったか!?
- 女
- 集中しろよ!
- 男
- なんでこんなところにヒュー・ジャックマンが!?
- 女
- 前向いて!
- 男
- ホントにいたんだって!
- 女
- あとでその話聞くから。
- 男
- 無理!
- 男、携帯電話を放り投げる。
- 男
- 携帯、落とした。
- 女
- え?
- 男
- 手が滑った!
- 女
- ええ?
- 男
- 止まってる暇ないって!着いてるもん電車、開いてるもん扉。降りてるもん乗客。
- 女
- すいません!通して下さい、すいません!
- 男
- 階段、転ぶなよ!
- 女
- 急いで!
- 男
- 乗ります!
- 女
- 乗ります!
- 男
- 閉まる閉まる閉まる閉まる!
- 電車に乗り込む二人。電車の扉閉まり、発車する音。
- 男
- どうすんの?次の駅で、降りる?
- 女
- ・・・
- 男
- ほんとは昨日までの間に、ちゃんと言おうと思ってたんだけど・・・次に住む部屋、八畳あるんだ。
- 女
- (笑って)広いね。
- 男
- だろ?おい、どこ行くの。
- 女
- 先頭車両。景色見たい。
- 男
- え?ちょっと待って。ねえ!
- 終