- ボリボリ、ボリボリ、豆食らう。
狂ったように豆食らう。
ボリボリボリボリボリボリボリボリ。
- 豆女
- ナン粒だっけ?数えで?数えってややこしくない?とりあえず年の数だけ?33粒。節目だから節目。あー、歯につまるんだよね。つまりだしたら年だね。だってさんじゅうさんだもーん。お茶いれてくれない?
- 鬼
- あ、はい。
- コポコポと湯のみに注がれる熱いお茶。
- 豆女
- あんたも大変だぁねぇ。
- 鬼
- や、そんな。もう最近あんまり忙しくないですから。
- 豆女
- だぁね。節分なんかイマドキどの家庭も忘れてるもんね。
- 鬼
- え、ですから僕もまぁ、今は、やってないんですけどね。
- 豆女
- え!?今鬼やってないの?
- 鬼
- え、普通に営業やってますから。
- 豆女
- 営業?何の?
- 鬼
- 某携帯ショップで。
- 豆女
- そんな赤い顔して?
- 鬼
- 赤面症ってことにしてますから。
- 豆女
- 赤すぎるよ?
- 鬼
- そんな人間もたまにいるでしょう。
- 豆女
- 世間にまぎれてるねぇ。
- 鬼
- こんな時代ですから。
- 豆女
- 本業の鬼は廃業して?
- 鬼
- お呼びもかからないし。
- 豆女
- 呼んだ呼んだ呼んだじゃんあたしが。交差点青信号になって歩いてたら、いるんだもん。鬼がさぁ。背広着て。こりゃ家に呼ぶでしょそんなもん。普通会わないよ?あ、ちょっともうちょい暖房の温度上げて。
- 鬼
- あ、はい。
- ピピとリモコンの音。
- 鬼
- や、完璧に人間の格好していたはずなんですけど。
- 豆女
- なわけないじゃん!じゃこれなによ!?
- 鬼
- 角、ですね。
- 豆女
- ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ!
- 鬼
- 角コールはやめてくださいよ。
- 豆女
- 丸見えじゃん。
- 鬼
- 普通は見えないんですよ。
- 豆女
- あたしには見えるんだけど。
- 鬼
- ねぇ。なんででしょうかね。
- 豆女
- そりゃあたしが鬼に近づいてるからじゃないの?
- 鬼
- へ?
- 豆女
- 鬼のあんたが背広着て営業して人間に近づいてるんだから、人間のあたしが鬼に近づいたっておかしかないでしょうが。
- 鬼
- ああ、なるほど。
- 豆女
- いっそのこと変わっちゃおうか?
- 鬼
- 変われるものならねぇ。
- 豆女
- あたしが鬼なら、鬼の職業まっとうするけどね。
- 鬼
- そりゃはたから見れば、お伽話的な生活に見えるだけですよ。
- 豆女
- 違うわよ。
- 鬼
- え?
- 豆女
- 人間だからヤんなるのよ。
- 鬼
- 鬼ならヤじゃないんですか?
- 豆女
- 人間なのに、って思っちゃうから複雑なのよ。完全に鬼になりきれないのに、むっくり顔を見せるのよ。赤い赤い顔が。怒りに燃えた赤い顔がね。鬼なら、それが当たり前じゃない。
- 鬼
- 鬼にだって、いろいろあるんですけどね。
- 豆女
- そうね。背広着てるくらいだからお察しするわよ。
- 鬼
- 久々に、投げつけてもらえますか?
- 豆女
- 豆ね。
- 鬼
- 思い切り。
- 豆女
- それが本業でしょ?
- 鬼
- はい。
- 豆女
- 追い出さなきゃね。
- 鬼
- はい。
- 豆女は窓を開けた。
そうして思い切り叫ぶ。
しんとした夜の街に向かって。
「鬼は内、鬼は内、鬼は内、鬼ばっかり」
バラバラと、豆は夜の闇に消えていった。
- おしまい