- 男
- 先生になんて言おうか。
- 女
- え?
- 男
- 怪我の原因。
- 女
- あ・・・。
- 男
- 正直に言っとく?
- 女
- それは、ねぇ・・・。
- 男
- だよな。
- 女
- (メロドラマ風に)主人が、私に手をあげたんです。
- 男
- 先生が本気にしたらどーすんの。
- 女
- うふふ。
- 男
- つうか、俺の方がもっと怪我してるし。
- 女
- 私も、手を出すつもりはなかったんですっ。
- 男
- だから、
- 女
- じゃあ、バナナの皮が落ちてたとか。
- 男
- (お医者になったつもりで)
ヤマグチさん、バナナの皮がどうして室内に落ちてるんですか?
- 女
- ええと。うちで猿を飼っていて、その猿が食べたバナナの皮をそのへんにポイポイっと捨てちゃうもんで、
- 男
- ほうほう。ポイポイッと。
- 女
- で、主人も私もそのバナナの皮に滑って転んで、
- 男
- 怪我をしたと。
- 女
- はい。
- 男
- それは大変危険な猿ですね。
- 女
- これからはゲージで飼うことにしましたので、今後はバナナの皮で滑るなんてことは、起こらないと思います。
- 男
- いつまで続けるねーん。
- 女
- 苦しい言い訳って感じよね。
- 男
- 普通に【転んだ】でいいんじゃない?
- 女
- 二人が同時に転ぶなんて、変に思われないかな。
- 男
- まあねえ。
- 女
- でもどうしてなの?
- 男
- どうしてって?
- 女
- あの廊下、つまづく物なんかなかったし。
- 男
- 意外と重かったっていうか・・・。
- 女
- え?
- 男
- ミキちゃんを持ちあげて、予想以上に重くてよろめいて、んで自分で自分のスリッパを踏んづけて、それでつんのめっっちゃった感じ。
- 女
- ごめん、重くて・・・。
- 男
- ごめんな、貧弱で。
- 女
- ううん。シンちゃんはスゴイよ。私、見直したんだから。
- 男
- え?
- 女
- 私を守りながら転んだでしょ。
- 男
- そうかな。
- 女
- 普通なら、自分の身を守るために私を投げ出すと思うのよ。
でも、私をカバいながら転んだでしょ。
- 男
- とっさの事だし、そうしようと思ってやったわけじゃないから・・・。
- 女
- だから余計にすごいんじゃないの。・・・愛よね愛。
- 男
- かなぁ。
- 女は「このこのぉ」などと言いつつ、男をツンツンつついてみる。
- 男
- こらこら、病院、病院。あはは・・・イデデ。
- 女
- あ、大丈夫?
- 男
- 大丈夫。
- 女
- で、どうする?
- 男
- 先生になんて言うか?
- 女
- うん。
- 「ヤマグチさーん、次どうぞ」と看護師さんの呼ぶ声がする。
- 終わってまた始まる