- 女
- ねえ、コレは何?
- 男
- タバコ
- 女
- どういうこと?
- 男
- どういうことって?
- 女
- もう吸わないって言ったよね
- 男
- いや、吸ってないよ
- 女
- じゃあ、コレ何?
- 男
- コレは、あの、ブログ用の写真を撮った時にね、大きなカボチャ。こんなでっかいの。が、あって。どれくらい大きいか、コレ、伝わりにくいなあって思って。で、タバコをね、カボチャの隣に置いたわけよ。だから、そういうことよ。コレは、その時のカボチャ(動揺の表れ)
- 女
- カボチャ?
- 男
- ああ、いや、その時のタバコ
- 女
- それは、わざわざカボチャの隣に置くために買ったってこと?
- 男
- そうそうそうそう
- 女
- コレ、封が開いてんだけど
- 男
- それはだって、友達にあげたから
- 女
- 何で全部あげなかったの?
- 男
- それはだって、またカボチャの隣に置くかもしれないし
- 女
- 写真見せて
- 男
- え?
- 女
- カボチャの写真見せて
- 男
- ああ、アレは消えちゃった
- 女
- 撮ってないんでしょ?
- 男
- いやいや、消えたの。たぶんね、カボチャの呪いじゃないかな。そのカボチャね、すっごい目つきが悪くてさ、なんか半笑いだったもん。あ、ちょっと待って? アレ、ハロウィンだわ。呪いとか違うし(と、笑ってみるが、すぐに心は折れる)
- 女
- あのね、私はね、吸わないって約束したのに、私に内緒で吸ったことが許せないわけ。これはね、浮気をしたのと一緒だと思うのね
- 男
- え、何で? 何で、浮気と一緒なの?
- 女
- 欲望に負けたんでしょ? 私にバレなければいいと思って吸ったんでしょ? 一緒じゃない
- 男
- いや、人とタバコは違うでしょ
- 女
- 考え方は一緒でしょ。あなたは浮気する可能性があるってことが分かったわけよ
- 男
- そんな、カボチャの写真撮ったくらいで、あなた浮気しますって、ええ?
- 女
- まだ、カボチャ引っ張る?
- 男
- …じゃあさあ、俺も言わせてもらっていい?
- 女
- 何?
- 男
- カバン
- 女
- カバンが何?
- 男
- カバン買い過ぎ。もう買わないって約束してから、新しいカバン何回見たか
- 女
- カバン買ったら悪いの?
- 男
- はっきり言ってね、勿体ない。何でそんなに次々買い換えるの? カバンって、そんなにいる? 何を持ち歩きたいの?
- 女
- カバンを持ち歩きたいの
- 男
- え? 中身は?
- 女
- 何でもいいの。なんなら、カボチャでもいいの(些細な仕返し)
- 男
- …俺、思うんだけどさ、おまえも浮気する可能性があるってことだよ?
- 女
- は? 何で
- 男
- すぐに新しいカバンを買うってことは、飽きやすいってことだろ? そうやってカバンを買い換えるように、男もどんどん変えて行くんじゃないの?
- 女
- そうだよ
- 男
- えっ!? おい、ちょっと待てよ。何、その、開き直り
- 女
- そうならないように、カバンでストレス解消しているの
- 男
- えぇ…
- 男がみるみる小さくなって行く
- 男N
- 「返す言葉がありませんでした。俺は、タバコよりも小さくなって、彼女のカバンの中に入りました。カバンの中では、頻繁に携帯電話が震えます。着信の度にごつごつしたデコレーションが胸に刺さります。そんな暗くて足場の悪いトコですが、カバンの適度な揺れは、慣れると案外心地いいものです」
- 終