耳の奥で、くるる、くるると音がする。
くるるぅ、くるるぅ、くるるぅ。(くぐもった鈴のように)
プールの後のように、とんとんゆすってみる。
すると真珠のようなま白な珠が落ちてきた。
こんころりん。(真珠が床で跳ねるような)
嗅いで見ると、猫の背中のような、日なたの匂い。
にゃはっはっはっは。(勝ち誇ったように)
こんな所に居たのね。
にょほほ。
急に居なくなっちゃうから、随分と心配したのよ。
しゅるしゅるしゅるしゅる・・・。(煙と化していき)
あ、ねえ待って。
しゅぅぅー。
白い珠は、煙となり、一瞬、男のすまなそうな顔のように見え、そして消えた。
おーい。
気がつくと、毎年過ごした海辺のバンガローに居た。
クジラが出たぞー、クジラだよ、クジラだってば、おーい。
時々、男は途方もない嘘をついた。低血圧の私を起こすために。
嘘なんかじゃない。あともう少し早く起きてくれば、奴らを見られたのに。
奴ら?
親子、恋人かな。ともかくスケールがでかいもん同士のスキンシップ、すごいぜ痺れた。
私も見たかったな。
よーし、待ってな。呼んで来てやるよ。
呼んでくるって、そんな、
奴らとは友達だから。
男はラッコのように楽しげに微笑み波間へ消えた。
おーい。
どこ?
ここ。
ねえ、どこ?どこに居るの?
ここ、ここ、ココ、コケコッコー。(朝を知らせる)
目が覚めると、ダクダクと泣いていた。
だくだくだく、だくだくだく。(ワルツのような三拍子で)
枕についた涙のシミが、いきなりワルツをおどりはじめた。
ラッタッター、ラッタッター、ラッタッター。(楽しげに)
うるさい。
ラッタッター、ラッタッター、ラッタッター(しだいに遠ざかる)
涙たちは、濃厚に絡み合いながら去っていった。
ちゃぷんと滴のしたたる音。
くじら、みつからなかった。
・・・。
ごめんなぁ・・・。
男は私の夢の中で、自由奔放、縦横無尽、変化自在に振舞いながらも、最後に、いつもこう謝る・・・。
ごめんな。
私が謝らせている。わかっているのに、「いいよ」の言葉は喉の奥に引っ掛かり出てこない。
ごめんな。
逢いたいの。せめて夢の中だけでも。まだしばらく、まだもう少し・・・。
・・・うん。
終わってまた始まる