- 深夜。夫婦の寝息が聞こえている。
二人は二人して寝言がひどかった。
- 夫
- あーぅ。
- 妻
- ぶーー。
- 夫
- ふぅうううう。
- 妻
- あーーーさり。
- 夫
- りんご。
- 妻
- ごりら。
- 夫
- ら?らーーーーー。
- 二人の寝言は会話のようにも聞こえるが、あくまで寝言である。
- 夫
- らららすぺりあろごす。
- 妻
- ………は!
- 妻は突然目を覚ます。
- 夫
- (妻の目覚めに気がついて)どうした?
- 妻
- …ものすごく怖い夢みた。
- 夫
- どんな?
- 妻
- なんか変な怪獣にみたいなのに追いかけられた。
- 夫
- …そうか。もう寝よ。
- 妻
- うん。
- 夫
- おやすみ。
- 妻
- おやすみ。
- 二人は再び盛大な寝息を立て始める。
- 妻
- あーーぷしィ。
- 夫
- ぶーーーー。
- 妻
- あ、あ、あ、あ。
- 夫
- ふーーろやのえんとつぅぅ。
- 妻
- ぅうううらんばーとるぅぅ。
- 夫
- ぅぅうりうりこぞうぅぅ。
- 妻
- ……は!
- 妻はまた目を覚ます。
- 夫
- どうしてん?
- 妻
- なんか今度は日本風の妖怪がでた。
- 夫
- は?
- 妻
- なんか突然夢の中に子供みたいなの出てきて、うりうりって。
- 夫
- 何を?
- 妻
- わからん、何かうりうりされた。
- 夫
- つかれてるのか?
- 妻
- うん。
- 夫
- しばらくは俺の稼ぎだけでもやっていけるんやし、あれやったら、仕事やめても、
- 妻
- いいよ。今の仕事そんなにキツイわけじゃないし。
- 夫
- でも、
- 妻
- 大丈夫。ありがとう。
- 夫
- でも、
- 妻
- なんか別に原因があると思う。
- 夫
- そうか。
- 妻
- ごめんね。心配させて。
- 夫
- もうねるか。
- 妻
- うん。
- 夫
- おやすみ。
- 妻
- おやすみ。
- 二人は再び盛大な寝息と寝言。
- 夫
- あーしば。
- 妻
- とっといとっとい。
- 夫
- いりおもてやまねこぉぉぉー。
- 妻
- お、お、おいすたーそーすぅぅぅ。
- 夫
- う、う、うしおとこぉぉぉ。
- 妻
- (苦しそうに)うーうー。
- 夫
- もーーーー。もーーーー。
- 妻
- は!!
- 二人は目覚める。
- 夫
- どうしてん?
- 妻
- へんな人に追いかけられた。
- 夫
- どんな?
- 妻
- 体が人間で顔だけ牛で、
- 夫
- 安心しろ俺が守ってやるよ。
- (この辺りから二人の会話は映像の早まわしのように早口に)
- 二人
- おやすみ。
- 盛大な寝息と寝言。
- 夫
- あーーーぴし。
- 妻
- つーーーぷし。
- 夫
- しはち。
- 妻
- にじゅうはち。
- 夫
- しく。
- 妻
- さんじゅう。
- 夫
- しし。
- 妻
- じゅうろく。
- 夫
- ひくごじゅうろく。
- 妻
- まいなす、まいなす…は!
- 夫
- どうしてん?
- 妻
- 数学のテストの夢を見た。
- 夫
- 落ち着け、ココアでも飲むか?
- 妻
- 大丈夫。
- 二人
- おやすみ。
- 再び寝息と寝言が繰り返される。
しだいにフェードアウト。
- おしまい