旅人のコートを脱がすことができず、太陽に負けた北風が言いました。
 
「いや参ったよ。君の勝ちだ。」
 
すると太陽は、
 
「いや、服を脱がせるのは簡単。しかし…」
 
北風が、少し曇る太陽にささやきました。
 
「どうしたんだい?どうしたんだい?」
 
少し曇った太陽は、もじもじしながら、こう言いました。
 
「あいつだけは、脱がせることが出来ないんだ。」
 
北風が、ヒューヒュー鳴らしながら言いました。
 
「まさか、…女か?」
 
太陽は真っ赤になって言い返しました。
 
「バカ野郎!女を脱がすなんてぬかすな!」
 
北風は、太陽の脱がすなんてぬかすな!っていう言葉が気に入り、真剣に聞いてあげました。
 
「じゃあ、誰を?」
 
太陽は大きなプロミネンスを使って指さしました。
 
「あいつだ!」
 
北風はその方向に意識を向けました。そこには普通のサラリーマンがいました。
 
「サラリーマンじゃん!」
 
太陽は苦々しくいいました。
 
「ジャンって!」
 
北風はそんなこと気にしないでさらに続けました。
 
「スーツを脱がすなんて簡単でしょ!」
 
太陽は言いました。
 
「そうではないんだ。」
 
しばらく間をとり北風は小さな声でつぶやきました。
 
「クールビズ?クールビズ?」
 
太陽は真っ赤になって言いました!
 
「クールビズのためではない。」
 
北風は太陽の言葉がしゃれていなかったので、何も言い返しませんでした。 太陽は言いました。
 
「あいつの理想という殻を脱がしたいんだ。」
 
北風が
 
「理想?」
 
太陽が、
 
「理想という殻。」
 
北風は気を使って言いました。
 
「風を吹かそうか?」
 
太陽は少し黄色くなって、こう言いました。
 
「無理だよ。私たちの力では、理想を脱がすことはできないんだ。」
 
北風は聞きました。
 
「なぜ理想を脱がそうとしているんだい?」
 
太陽は、二つの目をぱちくりさせて話し始めました。ちなみのこの小さな目は、黒点です。
 
「あいつは、理想を手に入れるため、いやなお金儲けもするんだ。」
 
北風はすぐにいい提案を思いつきました。
 
「お金をばらまきゃいいじゃん!」
 
太陽はカンカンになって言いました。
 
「お前は…。」
 
北風は聞きました。
 
「続きは?」
 
太陽は言いました。
 
「お前は大人だな。」
 
北風は言いました。
 
「今まで始めて言われたよ、大人って。…北風の大人かぁ~。」
 
太陽はすごい勢いで突っ込みました。
 
「おい!マジでそう思ってるの!とにかく、お金で解決するのではなく、お金で手に入る理想を脱がしたいんだ!」
 
北風は純粋に疑問を持ちました。
 
「なんで?」
 
太陽はとつとつと話しました。
 
「あいつは、必死になって汗かいて、時間を無駄に過ごしているような気がするんだ。」
 
北風はクールに言いました。
 
「お金で解決出来るならそれでいいじゃん。」
 
太陽は言いました。
 
「でも、過労死するまで働いたり、糖尿病になるまで働いたり、おかしいんだ。お金で理想が手に入るか?お金のためにそこまでするべきなのか?」
 
北風は、さらにクールになって言いました。
 
「でも、それも人生なんじゃない?」
 
太陽は言いました。
 
「そうなのかな。…楽しいのかな。幸せなのかな。」
 
北風は、今まで向いたことないのに、まぶしい太陽の方を向いて言いました。
 
「お前、熱いね。」
 
太陽はさらに熱くなって言いました。
 
「お前クールだな。とにかく、お金で手に入る理想があるという、その思いを脱がしてやりたいんだ。そして…。」
 
北風は少し太陽の言葉を待ってから聞きました。
 
「そして?」
 
太陽は言葉を続けました。
 
「そして…おこがましいが…普通に幸せになってほしいんだ。」
 
北風は考えました。
 
「うーん。そんなことよりさ、夏日はいいけど、猛暑日、何とかならない。」
 
太陽は少し申し訳なさそうに言いました。
 
「えっ?…そうだね。頑張るわ。」
 
北風はさらに言いました。
 
「俺も、いい風吹かすよ。」
 
太陽は少し笑顔で言いました。
 
「ああ、頼むよ。自分の出来る中で精いっぱいしていかなきゃな。」
 
北風は言いました。
 
「おっ!大人になったな!」
 
太陽はギラギラして言いました。
 
「お前が言うな!」
 
そして、太陽と北風は、大人に一歩近づきました。