- 古いアパートの一室。壁にもたれウチワをあおぐ男、ブチ。
その隣に座る女、のら。
- のら
- スイカぁ・・・食いてぇ。
- ブチ
- オレ、肉、焼肉。
- のら
- 肉ぅ・・・いつから食ってないんだろ。
- ブチ
- あれが、もっと高く売れてりゃあな・・・。
- のら
- レコード。
- ブチ
- マニアなら泣いて喜ぶレアものだったのに。
- のら
- あと、いくら残ってる?
- ブチ
- (ポケットの小銭を出し)スイカは買える。
- のら
- あ。いいもんがあったぞ。
- のら、立ち上がり何かを取って来る
- のら
- じゃーん。キースのごはん。
- ブチ
- キャットフード。
- のら
- (ボリボリボリ)。
- ブチ
- 食った。
- のら
- キースいなくなっちゃったし。
- ブチ
- そういう問題じゃなくて。
- 女
- 私も先生にいい老人ホームが見つかるようお祈り申し上げます。
- のら
- (さらに食う)。
- ブチ
- うまいか?
- のら
- (食う)ちょい薄味。
- ブチ
- ちょっとくれ。
- のら
- 私が見つけたんだもん。
- ブチ
- オレが買ったんだし(取り上げようとする)。
- のら
- (離さず)横暴だ!我々は搾取されようとしている。
- ブチ
- ふざけんな、ウワッ。(キャットフードの袋が破けて中身が床に散らばる)
- のら
- あーあ・・・。
- ブチ
- 終わってるよ。
- のら
- え?
- ブチ
- 俺、今マジで腹がたった・・・
- のら
- ふふふ・・・
- ブチ
- いかんなあ。
- のら
- いかんいかん。
- 二人、床に散らばったキャットフードを拾い集めながら。
- ブチ
- 俺、仕事が決まってさ。
- のら
- うそ、なんで言ってくれないのさ。
- ブチ
- どうしようかなって。
- のら
- なんでなんで。
- ブチ
- 遠いから。寮に住むことになる。
- のら
- ふうん。
- ブチ
- お前、好きなだけここに居ろ。俺、がっつり稼いで、家賃くらい払っとくし。
- のら
- ぽ。
- ブチ
- え?
- のら
- なーんもなくなって。からっぽの『ぽ』って感じ。
- ブチ
- この部屋のこと?
- のら
- この部屋も、身も心も。
- ブチ
- ・・・ぽ。
- のら
- 世話になったな。
- ブチ
- 何だよいきなり。
- のら
- 帰るよ、家に。
- ブチ
- 家って実家か?
- のら
- まあねん。
- ブチ
- ごめん。
- のら
- 気色わりい。謝んなよ。
- ブチ
- うん・・・。
- のらはブチの肩にもたれる。
二人が見つめる夕暮れは、しだいに闇に変わってゆく。
- おわり