- 女
- タカちゃーん。
- 男
- なに、呼んだ?
- 女
- ちょっと手伝ってくれる?
-
- いいよ。
- 女
- 豆をサヤからだして、このボールに入れて欲しいんだけど。
- 男
- こんなに。なにすんの。
- 女
- 豆ごはんを作るの。
- 男
- 豆ごはん。
- 女
- 好きなんでしょ?
- 男
- 僕?
- 女
- じゃなくて、タカちゃんのお母さん。
- 男
- ああ、そういうの好きっぽいかも。
- 女
- ぽいじゃなくて、好きなの。タカちゃんに聞いても要領を得なさそうだから、お姉さんにちゃーんとリサーチしたんだもん。
- 男
- え、なん、
- 女
- (遮り)なんでかは、わかるよね。
- 男
- 今日、我が家にお招きするからでーす。
- 女
- はい正解。
- 男
- そういや、小さい頃この豆をサヤから出すの俺の仕事だったっけ・・・。
- 女
- えんどう豆って言えばさ、思い出す童話があるんだけど、
- 男
- どんな話?
- 女
- あるところにね、本物のお姫様を妃にしたい王子がいたの。王子は世界中を姫を探して巡ったけどピタッとくる人には出会えなかった。ある嵐の夜、王子のもとへ一人の娘が訪ねてくる。あなたがお探しの姫は私ですってね。
- 男
- 娘、積極的なアプローチだ。
- 女
- だから王子も戸惑うわけよ。それで母親は、本物の姫かみわけられる方法があるって、何重にも積み上げたふかふかの敷布団の一番下に、えんどう豆を一粒忍ばせたの。
- 男
- なんかの呪い?
- 女
- 呪ってどうすんの。本物のお姫様ならば、このえんどう豆に気付くはずだってこと。
- 男
- んなもんわかるわけないっしょ。
- 女
- そうよね。その娘は豆に気付かず、翌朝お城からたたき出されましたとさ。
- 男
- めでたしめでたし。
- 女
- って、それじゃお話になんないでしょ。
- 男
- やっぱ、豆に気付いたんだ。
- 女
- 翌朝、よく眠れたかと尋ねられた娘は、なにか布団の下に固く小さなものがあったようでアザができたと答えた。娘は本物のお姫様だと認められ、めでたく王子と結ばれましたとさ。
- 男
- 実は王子と娘はツルんでたのかも。
- 女
- どういうこと?
- 男
- 王子と娘はすでに好きあった仲で、母親がなかなか結婚を認めないだろうからってんで、ひと芝居うった。つまり、えんどう豆のことをこっそり教えといたんだ。
- 女
- ああ、そういう王子だと嫁姑も仲良く暮らせるよね。
- 男
- そうそう、母親の顔を立てつつ、嫁の味方するみたいな、難しいんだこれが。
- 女
- へえ、やってるような口ぶり。
- 男
- 家に遊びに来たいみたいだよとかさ、情報流してるっしょ。
- 女
- 息子の理想が高すぎることを心配した母親が、娘さんと手を組んで一芝居うったってこともありうるかもよ。
- 男
- 僕らの出会いって・・・。
- 女
- んなわけないでしょ。
- 男
- だよね。
- 女
- あ、お米が足りないの忘れた。
- 男
- 買いに行こうか?
- 女
- 駅の向こうのスーパーが安いから、チャリでひとっ走り行ってくる。
- 男
- マジで。
- 女
- 姫もさ、嫁になると逞しくならざるを得ないわけだよ。
- 男
- やっぱさ、豆一個でアザができる姫より、米乗せてチャリ飛ばせる姫の方がいいよね。
- 女
- (姫と言い直され、少し嬉しげに)行ってきまーす。
- 男
- 気をつけてね。
- 終わってまた始まる