聞こえてくる波の音。
やがて、ブクブクという泡の音に変わる。
「ちょっとあんた!また、ゴロゴロしてるんかいな!」
「そやかて、やることあれへんさかい。」
「何でも仕事探したらあるやんか!何でやらへんの!」
「でも、始めに「あんたはお客さんやから、なんもせんでええ」言うたやろ?」
「そんな昔のこと忘れた。」
「ついこないだやろ?」
「あーあ、こんな人やとは思えへんかったわー。」
「これまでよう働いてたわけやし、ちょっとぐらい羽のばしてもええやろ!」
「ちょっとやったらええよ。どんだけ遊んでる気?」
「まだ3日ぐらいやないか?」
「3日もや!!!あんたと私では時間が違う!!!」
少し冷静になる2人。
「そうなんかなー。愛さえあればいけると思とったけどなー。」
「あたしも・・・やっぱり違うんやわー。」
「生活環境って大きいねんなー。」
「私も実は反省してんねん。」
「何をや?」
「ここにいてほしい言うたこと。あんたにはあんたの生活があったのに。
ここの楽な生活を押しつけてしもて。」
「気にすんなや。俺もこんな夢みたいな生活がほんの少しでもできただけで満足しとるんやさかい。」
「あんたにとってはほんの少しなんやねー。」
「そこのところだけは歩み寄られへんかったわけやなー。荷物まとめるわ。」
「ほな、私もあんたの帰れる用意してくるわ。」
先程のブクブクという音がなる。
「準備できたでー。」
「そうそうそんな貧相な格好で来たんやったねー。」
「貧相いうな!これが男の仕事着や!」
「あんた、その時のままやったらうまいこといったかもしれへんのに。」
「しゃあないやろ。ご馳走に踊り、こんなおもてなし受けたん初めてやねんから。」
「変わり果ててしもたけど、根の優しいところだけは変わらへんかったね。」
「それが元で出おうたわけやからな。」
「準備できてるわ。」
「あいつか?」
「そう。ここに連れてきたんも自分やから、戻すんも自分や言うて。」
「あいつが俺らのキューピットやった。」
「あんたが帰るいうたら、ごっつい悲しそうな顔してたわ。」
「その辺、義理堅いなー。」
「海亀ってそんなもんよ。」
「ほんま助けといて良かった。」
「あんた、これ持って行き。」
「何やこれ?」
「玉手箱や。さみしなったらこれあけたらええわ。」
「ありがとう、乙姫。」
「じゃあ、浦島さん。」
「・・・もう太郎とは呼んでくれへんのか?」
「じゃあ、・・・太郎。」
「海亀!全速力で頼むー!」
「さようならー!太郎―!」
水中の音。
「きれいに涙を流してくれるから海は親切やなー。あかん、さびしなってきた。そうそう玉手箱や。これを開けたらきっと思い出の品が入ってるぞー!」
爆発音。 そして、じじいの声になった浦島。
「あー、若さがー、若さがー、ふっとんだー!!!乙姫―!覚えとけよー!」
「ハハハハハ、今頃、・・・ハハハハハ、あー、可笑しーい。」
「残りの人生で、工場作って、排水垂れ流したるからなー!」
男の怒号、女の笑い声、水中音が重なり、やがて音楽に変わる。