- にゃおん、にゃおん、ワンワンと、動物たちの声
子猫の鳴き声、子犬の鳴き声、
- 悪女
- おはよござまーす。店長?あれー?いないのー?
- 様々な動物たちが鳴いている店内を悪女はいつものように歩く
- 悪女
- てんちょ、
- その中にまじって、あきらかにおっさんの声で
- ケモノ
- にぁあ。
- 悪女
- …
- ケモノ
- にゃおん。
- 悪女
- おい。
- 悪女
- にゃおんじゃねぇよ。
- ケモノ
- にゃ?
- 悪女
- かわいくないから。店長!?この動物なんすか、どっから仕入れたんすか!?あ。
- レジの横に置手紙を発見した悪女
- 悪女
- 「お店のお留守番よろちくね」…置き手紙か…また、旅に出やがったな。
- ケモノ
- にゃにゃはにゃ。
- 悪女
- はにゃって何!?もう店長!新しい動物仕入れたら取り扱い書いておけっつーの。
- ケモノ
- にあん、にあん。
- 悪女
- 動物、つーか、お前さぁ、
- ケモノ
- に?
- 悪女
- 見た目完全におっさんじゃん…
- ケモノ
- うッ。
- 悪女
- 今言葉につまったよね?ねぇ?
- ケモノ
- に、ニィ、ニィ。
- 悪女
- 子猫の声真似したってダメ。ランニングに短パンで、伸び放題の髪の毛の子猫がいるか?
- ケモノ
- にあー。
- 悪女
- 腹見せんな!降参してるつもり!?
- ケモノ
- にゃおぉん。
- 悪女
- ご飯は猫缶だからね。
- ケモノ
- え!?
- 悪女
- あたしは豪華に牛丼大盛りとか食べるけど、あんたの目の前で。
- ケモノ
- にゃあ!にゃあ!
- 悪女
- あんたも牛丼食べたいの?
- ケモノ
- にんにん。
- 悪女
- でもって、食後にビールとか飲みたくない?
- ケモノ
- にんにん。
- 悪女
- おっさんじゃん…
- ピポパと軽快な電話のプッシュ音
何度目かのコール音が途切れると、まくしたてる悪女
- 悪女
- 店長!?どう考えてもおかしいんですけど。あれって、道端にいるおっさん連れてきたんじゃないでしょうね?三食昼寝付きとか言って引っ張ってきたんじゃないでしょうね!?いくらなんでもやりすぎじゃない?最近犬や猫じゃ珍しくないから、新しいモン仕入れたいって言ってたのは知ってるけど、あれ?れ?
- 店長の携帯はもちろん、
- 悪女
- 留守電だ…何このありがちなパターン…何が留守番よろちくだよ!
- 犬や猫の鳴き声にまじって、おっさんのかわいくない声がする。
- ケモノ
- にぃー…
- 悪女
- あ…置手紙、二枚目がある…
- 悪女は二枚目を読んでみる
- 悪女
- 「珍しい動物。非常に手がかからず、費用もかからない。観賞用」ナニこれ。「見る人によって様々な姿に変異します。この動物の本当の姿はいまだ解明不可能。鏡のように、見た人の中身が映し出される。少女のような女性が見れば、少女に見える。悪魔のような少年が見れば、悪魔に見えるかもしれない。10人の人間が同時に見れば、10種類のものに見える。観賞用ですのでくれぐれも檻からは出さない」…え。ちょっと、じゃ、あたしの中身はおっさんのくせに猫なで声出してるってわけ?ちょっと待ってよ、いくらなんでもショックなんだけど…
- 悪女は振り返って檻を見た
- 悪女
- …あれ?
- キィ、キィ、と檻の扉が空しく音をたてる
- 悪女
- え!?どこ行った?あれ、鍵、かけてなかったの?やだ…店から出ちゃった?
- 悪女は置手紙を見直す
- 悪女
- 10人の人間が同時に見れば、10種類のものに見える…ちょっと、なんか、やばくない?
- 悪女は急いで店の扉を開けて町に出る
町はすでに交通渋滞が始まっていて、いたるところで悲鳴があがる
急ブレーキの車の音、クラクション、パトカーの音さえ聞こえる
誰もが、その珍しい動物に映った自分の本性を垣間見て悲鳴を上げるのだ。
- 終