- 診察室
- 女医
- 次の方どうぞ
- 患者
- こんばんは
- 女医
- はい、こんばんは。どうしました?
- 患者
- 最近、どうも、体調が優れなくて
- 女医
- 具体的な症状は何かありますか?
- 患者
- 頭が真っ白になります
- 女医
- それは、どういう時に起こりますか?
- 患者
- 彼女が男性と楽しそうに話している時
- 女医
- じゃあ、聴診器当てますので、服を上げて下さい
- 女医、聴診器を当てる
患者の心の声が聴こえる
- 患者
- やっぱさ、友達付き合いは大切にしないとな(心の声)
- 女医
- はい、後ろ向いて
- 患者
- 頼むから、俺以外とは一切口利かないでくれ(心の声)
- 女医
- はい、いいですよ
- 患者
- 風邪ですかね
- 女医
- 風邪ではなさそうです。痛かったら言って下さいね
- 患者
- はい
- 女医
- 「友達と飲みに行ってて、返事遅れちゃったの」
- 患者
- 痛いです
- 女医
- 痛いですね。これはどうですか?「ねえ、あの子、超格好よくない? あのCMの。
ニコって笑ったらエクボの出来る男の子。私、ああいう子、タイプかもしれない」
- 患者
- (被せて)痛い痛い痛い、先生っ、痛い!
- 女医
- はいはい、もうしません。痛かったね
- 患者
- コレ、何かの病気ですかね
- 女医
- コレは…嫉妬ですね
- 患者
- 嫉妬? 出来れば早めに治したいんですけど
- 女医
- 嫉妬は昔から不治の病と言われてまして
- 患者
- 早く治さないと創作に身が入らないんです
- 女医
- 創作?
- 患者
- 明日締切の脚本の仕事がありまして
- 女医
- 彼女と会わなければいいんじゃないでしょうか
- 患者
- 別の男に行ってしまったらどうするんですか?
- 女医
- (カルテに)重症
- 患者
- 薬で抑えることは出来ないんですか
- 女医
- まあ、最近は医学も発達して来まして
- 患者
- あるんですか!?
- 女医
- 嫉妬しなくなる薬が開発されてはいますが
- 患者
- お願いします!
- 女医
- 副作用が
- 患者
- 創作に集中出来れば副作用なんて問題ないです
- 女医
- コレを飲むと、自分に自信が溢れてきます
- 患者
- え? いいじゃないですか
- 女医
- そのため、自己中心的な人間になってしまいます
- 患者
- それぐらい構いません
- 女医
- あと、怒りの感情が湧かなくなります
- 患者
- え? いいじゃないですか
- 女医
- 自分に自信を持ち、怒りを感じない心になるため、相手のちょっとした行動にいちいち嫉妬しなくなります。仏のような男になれます
- 患者
- 仏のような男になりたいです
- 女医
- ホントにいいんですか?
- 患者
- 死んだりはしませんよね? ホントに仏になるのはイヤですけど
- 女医
- それは大丈夫です
- 患者
- じゃあ、お願いします
- 女医
- では、この液体を飲んで下さい
- 患者
- はい
- 患者、嫉妬しなくなる薬を飲む
ゴクゴクゴクゴク…
液体は食道を経て、時も経て―
- 女医
- 次の方どうぞ
- 患者
- こんばんは
- 女医
- こんばんは。最近調子はどうですか?
- 患者
- 元気に暮らしております
- 女医
- 彼女とはうまくいってますか?
- 患者
- 別れました
- 女医
- えっ?
- 患者
- 別れる時に言われました。ちょっとぐらい嫉妬してくれてもいいじゃないって(と、上品に笑う)
- 女医
- じゃあ、今は脚本家一本で
- 患者
- 脚本はもう書いてないです
- 女医
- えっ?
- 患者
- どうも創作意欲が湧かなくて…何と言うか、私の場合、おそらくですが、嫉妬とか怒りの感情が創作の源だったようです。それ、なくなっちゃった(と、上品に笑う)
- 女医
- 怒っておられます?
- 患者
- いや、不思議とそういった感情は湧いてきません
- 女医
- (カルテに)完治
- 患者
- でもね、仏のような男になったって評判なんですよ
- 女医
- それは薬の効果ですね
- 患者
- 良きかな、良きかな(この言葉のチョイスは患者的冗談で薬の効果ではない)
- 女医
- 薬代、来週までにお願いしますね
- 患者
- 良きかな(と、上品に笑う)
- 大切な感情を失ってしまった男は、可哀想な程に優しく笑う
- 終わってまた始まる