- 男
- いっぺん乗ってみたいねんなぁ。
- 女
- ん?
- 男
- あの遊覧船。
- 女
- あれ乗ったらどこに行けるん。
- 男
- 川をずっと行ってまた戻ってくるんちゃうん。遊覧船やし。
- 女
- どこにも行けんのか。
- 男
- どっか行きたいんやなくて、
- 女
- 水かて、ぜんぜんキレイちゃうし。
- 男
- 見てみたい。
- 女
- なにを?
- 男
- 揺れてんねん。
- 女
- 揺れてる?
- 男
- 乗ったことないから想像やで、想像やねんけど、水辺から見た街はきっと揺れて見えんねん。
- 女
- あ・・・あるそんなん。
- 男
- どんなん?
- 女
- 自分が地球を回してる、みたいな感じする時ない?
- 男
- ない。
- 女
- 私は同じとこで足踏みしてるだけ。そしたら地球が動いてくれて、行きたい場所がずんずんって近づいてきてくれんねん。
- 男
- せやからお前、地図見る時クルクル回すんか。
- 女
- それはまた別。東西南北とかようわからんし。
- 男
- 太陽見たらわかるやん。
- 女
- 夜はどうすんのんよ。
- 男
- なんて言うか、鳥の目線になって俯瞰すんねん。
- 女
- ええねん、私はキミと違って地を這う虫やから、前後左右で生きていくねん。
- 男
- なにそのヒネた言い方。
- 女
- 自信があるときだけやし、
- 男
- なにが。
- 女
- そうやって行きたい場所が近づいてきてくれるみたいな感覚。
- 男
- しぼんだ風船みたいな顔してんぞ。
- 女
- 私を雇てくれる会社なんかあらへんのかもな・・・。
- 男
- 俺の嫁さんになるか。
- 女
- ・・・やだ。
- 男
- フラれてもうた。
- 女
- 今そうなったら逃げ場にしたみたいやん。
- 男
- 今ならオトセル、て思てんけどなぁ。
- 女
- なーんやそれ。
- 男
- ゼイタクやて言われると思うねんけどな、
- 女
- なんよ。
- 男
- なんや息苦しい。今日も明日も明後日も、一年後も十年後も四角いビルの中でパソコンと向き合って、気がついたら一生が終わってんのか、て・・・。
- 女
- ゼータクゥ、と言うてあげよう。
- 男
- ほんまは揺れてんねん。人の心も、会社って組織も、ビルも道路も、揺れ続けてる。昨日と今日が連続してることの方が奇跡やねん。けど、なんぼ吸っても吸っても新しい空気が入って来おへん。
- 女
- 船、乗りに行こか。
- 男
- え。
- 女
- 揺れてんねんやろ、水辺から見た街は。
- 男
- 多分。
- 女
- 明日が見えん私も、見えすぎてタイクツしてるキミも、揺れてんねんやろ。
- 男
- きっとな。
- 女
- じゃあ、船の乗り場まで競争な。ヨーイ、ドン!!
- 男
- ・・・って、そっちちゃうで~!!
- 終わってまた始まる