- 紙ふぶきが舞って、町にパレードがやってくる
トランペット、太鼓、シンバル、足並み揃えてやってくる
楽しそうな太鼓の音、楽しそうな音楽、楽しいパレード
その音がやがて、太鼓は大砲に、シンバルはライフル銃の音に変わる
- 僕
- っっっあぁ!
- 生徒はベッドから飛び起きて
- 母
- どうしたの?
- 僕
- …パレード…
- 母
- こんなに汗かいて、怖い夢でも見た?
- 僕
- …うん…
- 母
- もう少ししたら起こそうと思ってたのよ。午後の授業の時間でしょう?そろそろ先生も来るから。
- 僕
- …母さん…
- 母
- 何?
- 僕
- パレードの、夢を見たよ…
- 母
- パレード?
- 僕
- うん、でね、
- 母
- 楽しみにしてたのね?
- 僕
- え?
- 母
- 明日だもね。パレード。
- 僕
- …え?
- 母
- パレードがくるでしょう、明日。大通りをね、やってくるの。
- 僕
- 何の、パレード?
- 母
- さぁ、なんだろ?実はお母さんもよく知らないの。でもね、誰でも参加できるパレードなんですって。町内会でお手伝いするから、明日は朝からお母さんいないから。
- 僕
- 参加するの?
- 母
- お母さんいないからってベッドから出ちゃ駄目よ、すぐ熱出すんだから。先生が来たら大人しくお勉強なさいね。
- 僕
- 参加するの?!
- 母
- なぁに?どうしたの、するわよ。学校の子たちも参加するみたいよ。参加するとね、ゼロインっていうものが貰えるんだって。
- 僕
- 何それ。
- 母
- 実はお母さんもよく知らないの。
- 僕
- 知らないのに参加するの?
- 母
- だってパレードなんだもの。お前は残念だけどこの窓から見物してなさいね。
- 僕
- 母さん。
- 母
- 先生遅いわねぇ。
- 僕
- 僕、おかしな夢を見たよ。
- 母
- 怖い夢ね?
- 僕
- パレードがやってくるんだ。
- 母
- パレードなのに怖いの?
- 僕
- 大通りにやってくるんだ。青い空に色とりどりの紙ふぶきが舞って、花びらみたいに、鼓笛隊はバラバラ太鼓を叩いて、音楽はマーチ、みんな長い長い行列をつくって歩いてる。
- 母
- ちっとも怖くないじゃない。
- 僕
- 僕はみんなに聞くの。「これはなんのパレードですか?」って。そしたらみんな知らないって言う。でもパレードだって。参加は自由だって。行列に並んでる人はみんな何か覗いてるんだ。
- 母
- 覗いて、何見てるの?
- 僕
- 分からない。でも、覗いて、ぼやけた視界がはっきりしたら、みんな人差し指をひっかける。そしたら、太鼓の音が、違う音に変わるんだ。みんな、知らないうちに参加してるんだ。
- キンコンと玄関のチャイムが鳴った
- 母
- あ、先生来たみたいね。はぁい。
- と、母は玄関へ
僕だけがベッドの上ひとりきり
- 僕
- 僕はそれを、この窓から見下ろして何も出来ずに、テレビ見てるみたいに見てた、そんな夢…ねぇ、何のパレードがやってくるの?
- 鼓笛隊の太鼓の音
それはやがて、戦火の音に変わるだろう
パレードがやってくる
それは引き金を引く前触れのように
- おしまい