- 霧の立ち込めた海
- 男
- 「バミューダ・トライアングル。魔の三角海域と呼ばれている。この区域を通った船や飛行機は突如何の痕跡も残さず消えてしまう。これまで100を越える船や飛行機が消息不明になっている」
- × × ×
- 目覚まし時計の音
- 男
- 「今日もいつもと同じ一日が始まる。朝は満員電車に揺られ、昼は理不尽な上司に怒りを覚え、夜は遅くまで残業。自分の時間がない。やる気が出ない。出逢いもない。魔の三角海域に入ってしまった俺は、本日17時過ぎ、第一会議室沖で消息を絶った」
- 女
- お先に失礼します
- 男
- 自分がいない…
- 女
- どうしたんですか? 顔色悪いですよ
- 男
- 自分を見失ってしまいました
- 女
- …そうなんですか
- 男
- そうなんです
- 女
- …遭難ですか(ユーモアで)
- 男
- …遭難です(真面目に)
- 男
- 「こうして、会話も消息を絶った」
- 男
- 「何でもツライ時にはその原因を考えるのが一番だ。俺は、バミューダ・トライアングルに入った船や飛行機が何故消息不明になるのか調べてみることにした。ネットサーフィンをする」
- 波の音
- 男
- 「すると、一つの説に行き当たった。メタンハイドレート説というものだ。海底の下にはメタンガスがシャーベット状になって固まっているらしい。それをメタンハイドレートという。船は、大量発生したメタンガスの泡により浮力を失って沈没し、飛行機は、エンジンがメタンガスを吸い込み、不完全燃焼のため出力低下。揚力を失って墜落するという。そうか…そうだったのか…」
- 目覚まし時計の音
- 男
- 「今日もいつもと同じ一日が始まる。朝は満員電車に揺られながら、みんな同じようにメタンガスを吸っているんだよなと思い、昼は理不尽な上司に怒りを覚えつつ、メタンガスの吸いすぎでおかしなこと言ってるんだろなと思い、夜は遅くまで残業…」
- 女
- お先に失礼します
- 男
- あの、メタンハイドレートって知ってます?
- 女
- ええ。海の底にある次世代資源のことですよね
- 男
- 資源?
- 女
- 最近、メタンハイドレートの連続回収に成功したそうですよ。すごくないですか? エネルギー問題が出始めた時代に、地球の奥底からエネルギーが発見されるって
- 男
- 「目の前に、俺のとは全く違う船があった。そうか…そうだったのか…」
- 男
- あの、ご飯食べに行きませんか
- 女
- ええ、行きましょう
- 男
- 何食べたいですか?
- 女
- メタンガス(ユーモアで)
- 男
- 「俺は、このバミューダ・トライアングルの中で、消息不明にならず、メタンガスを資源として活用することが出来るだろうか」
- 霧の立ち込めた海を1艘の船が行く
- 終