- 夕日の見える海辺。車で走る男と女。
- 女
- すごーい。
- 男
- え?
- 女
- ありがとー。
- 男
- えと・・・。
- 女
- きれーな夕日。
- 男
- あ、ほんとだ。
- 女
- え、違うの?
- 男
- 違うって?
- 女
- これを見せてくれるために、ここを走ったのかなーって。
- 男
- そうか、そういうことか、夕日か、ええと、ああっと・・・。
- 女
- はーい。一旦車止めましょー。
- 男
- ・・・すみません、頭真っ白になっちゃいました。
- 女
- ここまでは、なかなか良かったよー。
- 男
- はぁ・・・。
- 女
- 車までのエスコートも自然だったしぃ、音楽をかける前に相手の趣味を聞いてから選ぶってのも好感もてたし。
- 男
- さっきの、夕日んとこはなんて答えたらよかったんですかね。
- 女
- んーせっかく相手がイイように誤解してくれてるんだったら、それにノッちゃえば?
- 男
- なんか嘘ついてるみたいで。
- 女
- じゃあ「もっといいものをキミに見せてあげるよ」とか。
- 男
- なんですそれ?
- 女
- 「それは、キミと見る朝日さ」とかなんとか言っちゃって、このこのぉ~、ひゅーひゅー。
- 男
- 先生。
- 女
- おっと、先走りすぎた。
- 男
- あああ、やっぱ明日デートなんて無理だ~。赤面するし、手震えるし、すぐに頭真っ白になっちゃうし。
- 女
- 失敗してもいいじゃん。
- 男
- 失敗したくないから、恥を忍んで恋愛講座なんぞを受けて、先生に指南を頼んでるんじゃないですか。
- 女
- そーなんですけどぉ。
- 男
- やっぱ僕みたいな奴は、一生恋愛なんかしないほうがいいんですよ。赤っ恥かくより一人で生きてく、その方がいい、それでいいんだ。
- 女
- ねー、私の話していい?
- 男
- え、はい。
- 女
- 私、昔、すっごい辛い失恋をして。そん時はもう一生誰も好きになるもんかって誓った。それどころか、もう生きてさえいたくないって思ったの。
- 男
- でもステキなダーリンに出会ってぇ、今はハッピーとか言うんでしょ。
- 女
- ううん。そんな辛い時に一枚の絵と再会したんだ。「あなたへの道」ってタイトルがつけられた絵で、こんな感じ。
- 男
- って?
- 女
- 車の中から道が見えてるだけ。最初に見た時は意味不明だったけど、二度目に見たときわかったの。この絵は大切な人がいる場所へ向かう途中の風景を描いたんだなって。
- 男
- 何が言いたいんですか。
- 女
- だからー・・・恋をすると、ただの道がその人と自分をつなぐ特別な架け橋に思えるように、見るもの感じること全てが違う意味を持つわけ。それって本当にすごいパワーだよ。すっごい素敵なことなんだよ。それにね、たとえその恋が悲しい終わり方をしたとしても、以前とは違う自分があるってこと。うん、そういうこと。
- 男
- 恋の素晴らしさを説きつつ、失敗したときのフォローもしてるんですね。
- 女
- うふふ、まあそうともいうかなー。
- 男
- おちゃらけてばかりの頼りない先生だと思ってましたが、結構ズシンときました。
- 女
- ほんと?
- 男
- 頑張ってみます。明日、マイコちゃんへの道、走りますよ。
- 女
- おー!爆走してして。
- 男
- (携帯が鳴る)あ、ちょっとすみませんメールだ。
- 女
- あ、さてはマイコちゃんからだ。
- 男
- でへへ・・・え・・・。
- 女
- まさか。
- 男
- 明日、やっぱり行けないって・・・。
- 終わってまた始まる