- ワカメラーメンにお湯を入れ、待っている所だった。
バタン。
- 友
- 「早かったね。」
- 玄関から上がって来ない。子犬の様な目をして佇んでいる。
- 友
- 「どうしたの?」
- 愛
- 「ごめん。」
- 友
- 「何が?」
- 愛
- 「ごめん。」
- 友
- 「ごめんだけじゃ、ちっとも理解できないよ。」
- 愛
- 「好きな人ができた。…これ以上、嘘つくのが辛かったから…。」
- 友
- 「…思いやりあるっぽい言い方をするな!」
- なぜか靴はスムーズに履けた。
- 愛
- 「どこ行くの!」
- バタン。
階段をスムーズに走り降りる。
- 愛
- 「どこ行くのよ!」
- 好きな人ができたと言われたのは、2度目なのだ。
- 友
- 「死ぬ!」
- 愛
- 「ちょっと待ってよ!ちょっと待て!」
- 友
- 「待てるか!」
- 全力で落ち着かせ様とする愛の手を、全力で振払う。
- 友
- 「人間ときには間違うよねって許したのに、都合よすぎるだろ!
連れて来い!連れて来て、愛と二人で精一杯、土下座しろ!」
- 愛
- 「タカシは来ないよ…。」
- 友
- 「タカシ!この状況で、名前で呼ぶか?…きやぁー!」
- 何もかも、終わった。
- 友
- 「ありか無しかだったら、無しだろ…。」
- 早歩きしながら考える。
- 友
- 「どっちにする?どっちにする?」
- 右に行けば、駅改札。左に行けば、川だ。
- 友
- 「改札…。」
- 電車への飛び込みだと、「やめとけば良かった!」と思っても間に合わない。
- 友
- 「左だ…。」
- 川岸に近付き、小さい湾になった所から、入水を始める。
- 友
- 「やっちゃうのか…。」
- チャプ。
思った通り冷たいが、一歩入ってしまえばこっちのものだ。
- 友
- 「痛!」
- 水中で、足に何かがバンバン当たる。死を決心しても、水中の何者かが恐い。
- 友
- 「なに!」
- …何かがついて来た。まさかの、ヌートリアがついて来た。
- 友
- 「と、友達気分?」
- 死ぬ直前、ヌートリアと友達になれるなんて、奇跡だ。橋の上には、帰宅を急ぐ人達。
- 友
- 「どう見えるんだろう…。」
- 数歩行けば、足はつかない。…後ろを初めて振り返ってみた。
- 友
- 「あぁ、漫画みたい…。」
- 愛は、大きい木の影に半分体を隠し、ジッと見ていた。
- 友
- 「見てるだけ!見てるだけ!」
- このまま死ねば、無駄死にだ。
- 友
- 「死なないでおこう…。」
- 近くの浅瀬に避難する。
ザブン!バシャーバシャー!
追い掛けて来た。
- 友
- 「今更。今更。」
- 疲れて座り込む。急激に寒い。
- 愛
- 「帰ろう…。」
- 愛は非想な声だった。川から避難した場所は、ホームレスのおじちゃんの庭先。
自殺未遂で不法侵入。ちょっとした奇跡だ。
ガサッ。
- 愛
- 「え?」
- ヌートリアが川から上がって来て、傍に立っていた。
- * * *
- 愛
- 「バイバイ。」
- 愛は呆気無く、家を出て行った。
部屋の空間が私を襲ってくる。自殺して、一生後悔させようか。
相手をズタズタに刺して傷つけてやろうか。
…嗚呼。僕はさもしく、傲慢な人間だ。愛を責めれる人間じゃない。
- おわり