- 男
- やっぱ団地ってエエよな。
- 女
- そう?
- 男
- 俺、いまマンションに住んでねんけど、隣同士でも交流ないし。
- 女
- そのほうが楽じゃない?
- 男
- ほら、俺ら小学校の頃は、互いの家行ったり来たりして、晩飯食べさしてもうて、風呂まで入って、帰ったりしてたやろ?
- 女
- 私はそこまで厚かましいことはしてへんかったで。
- 男
- 友達の家は俺の家みたいな。
- 女
- まあね、家の構造はどこも一緒やし。
- 男
- 家族構成も似たりよったりで。
- 女
- 収入も、どんぐりの背比べって感じだったろうしね。
- 男
- せやから、「核家族」っていうより、「細胞家族」みたいやったんかな。
- 女
- 細胞家族?
- 男
- 家族って細胞が寄り集まってて、細胞の中の水は行き来できる、みたいな。
- 女
- 隣の晩御飯も、喧嘩も、どんなテレビ観てるかも、みーんな筒抜けやしな。
- 男
- ニュータウンやのに、長屋的っちゅうか。
- 女
- 鬱陶しいてたまらんかったけどな。
- 男
- え、そうなん?
- 女
- 2号棟の誰それさんは、絵画コンクールで優勝した。4号棟の誰それさんは学年で成績トップやった、でもあんたはっ・・・て。
同じ環境で育ったからって同じように成長するわけないのに・・・。
- 男
- けどな、「みんなファミコン買うてもうてる」って言うても、人は人、ウチはウチとか抜かしよるねんな。
- 女
- あ、でも、イイツカが陸上の全国大会で優勝したって聞いたときは嬉しかったな。
- 男
- え。
- 女
- 私、イイツカと同じ団地なんだぞーって、自慢してまわりたいくらいやった。
- 男
- 昔天才、いまはただの凡人。
- 女
- 私はずっと凡人だよ、いや凡人以下かも。聞いてるやろ?
- 男
- ・・・いや。
- 女
- 未だに独身。この秋リストラにあい寄生虫のように親とここで暮らしてる。
- 男
- そんな、色々あるって。みんな。
- 女
- おめでとう、
- 男
- え。
- 女
- って本当はあの時言いに行きたかってん。
- 男
- 言いに来てくれたら良かったのに。
- 女
- いきなり手のひら返したみたいな態度できへんやん。
- 男
- ・・・絶交してたから?
- 女
- うん。
- 男
- あのな・・・実はこれ・・・見つかってん。
- 女
- これ・・・ジグソーパズルの、
- 男
- 最後の一個。
- 女
- なんで?どこにあったん?
- 男
- 今日、こっちに大掃除の手伝いしに来ててな、下駄箱のけてみたら落ちてた。
- 女
- ・・・。
- 男
- これ見つからんでも、ほんまはちゃんと仲直りしたかってん、
絶交って言うた翌日からめっちゃ後悔してたのに・・・。
- 女
- ・・・。
- 男
- 最後の一個を失くしたのは僕でした、ヤマサキごめん。
- 女
- ・・・ブランコ乗ろうっか。
- 男
- え。
- 女
- 靴飛ばして、どっちが遠くに飛ぶか競争な。
- 男
- それ俺に勝ったことないやん。
- 女
- 勝つまでやる。
- ブランコをこぎはじめる二人。
- 男
- 言うとくけど、手加減せんからな。
- 女
- 望むところだ。
- 女
- 「これからヒトカケラづつ埋めていこう、今からでも遅くない。そう思った。
イイツカがこの小さなヒトカケラを大切に思い、ちゃんと届けてくれたように・・・。」
- 終わってまた始まる