- キンコン、キンコンとチャイムが連打される
部屋の中から声が聞こえる
「開いてるよー」
合鍵を使ってガチャリとドアを開けると
ベッドに寝そべってテレビを見ている 分 別子
- 分別子
- まだ鍵持ってるんだから、チャイムなんか鳴らさずにさっさと入ってくればいいのに。
- 元カレ
- 分ちゃん…
- 分別子
- あー、ごめん。荷物勝手に探して持ってって。
- 元カレ
- 分ちゃん…
- 分別子
- 押入れの中にも夏服とか入ってると思うから。
- 元カレ
- 分ちゃん。
- 分別子
- 何?
- 元カレ
- 足の踏み場もないけど。
- 分別子
- いつものことじゃない。ガッサガッサ入ってくればいいじゃん。
- 元カレ
- いや、うん、だね。
- 元カレは玄関で靴を脱いで一歩部屋に足を踏み入れる、と
ガサガサと、ゴミ袋の山をかきわけてベッドまで進む
- 分別子
- ベッドまでくればもう安全地帯だよ。
- 元カレ
- ベッドの上になんで食べかけのカップラーメン置いたまんまなの?ああ、ちょっと!
チョコレート剥き出しで布団の上に置いちゃダメだよ!
- 分別子
- いつものことじゃない。
- 元カレ
- 昨日水曜日だったでしょう?ゴミ捨てればよかったのに。
- 分別子
- なあにそれ?一緒に住んでる時にゴミのことなんか気にしたこともなかったくせに。
- 元カレ
- 分ちゃんがそうだから僕まで感覚がマヒしてただけ。
- 分別子
- ふうん。今の彼女はキレイ好きなんだ。
- 元カレ
- そんなんじゃないよ。
- 分別子
- さっさと必要なもん持って帰れば?
- 元カレ
- これ、大掃除してからじゃないと、わかんないよ。どこに、なにが、どう、あるのか。
- 分別子
- やあよ。私関係ないじゃん。勝手にやって。
- 元カレ
- 分ちゃん、仕事だったらきちんと分別するんでしょ?
- 分別子
- それが仕事だもん。燃えるゴミ、燃えないゴミ、ペットボトル、空缶、ビン。
- 元カレ
- おうちでも同じことでしょ?仕事で出来てるんだから、ね?
- 分別子
- ヤン!
- 元カレ
- ヤン、じゃないの!
- 分別子
- コックは料理するのが仕事でしょ?毎日毎日作ってさ、でもコックって、家じゃおたまも持ちゃしないのよ。それと同じ。
- 元カレ
- ゴミを分別して捨てるのは、やらなきゃゴミ屋敷でしょう!
- 分別子
- 住めば都だよ?
- 元カレ
- もういいよ。僕1人でやるから。もういらないものは捨てちゃっていい?
- 元カレは、ガッサガッサ、ゴミ袋や服やイロイロを片付けはじめる
- 分別子
- ゴクロンサン。
- ガッサ、ガッサ、ガッサ、ガッサ、元カレの独り言
「何、これ」
「う!匂いが」
「うわぁ、ひどい」
「ああ、ああ、ああ…」
それを見ていた分別子
- 分別子
- あのさ、
- 声をかけられて、元カレはゴミの山から顔を出した
- 元カレ
- うん?
- 元カレに差し出した
- 分別子
- 分別できないものがあるんだけど。
- 元カレ
- 何?
- 分別子
- 手紙。あんたにとっては、これももうゴミ?
- 元カレはそれを受け取って
- 元カレ
- 思い出とゴミか……紙一重だね。
- 分別子と元カレは顔を見合わせて、クスリと笑う
そのうち、クスクス笑いはいつのまにか大笑いに変わっていくだろう
昔やりとりした手紙はこっ恥ずかしい思い出になる
読み返すと、大笑いできそうなくらい
そんな別れも、まぁ悪くないと分別子は思って
ゴミための部屋に寝転んで、また笑いあった
- おしまい