- 風呂敷屋
- 拝啓ルイ・ヴィトン様。
- 父
- 誰だそれ。
- 風呂敷屋
- 父さん知らないの?
- あ!お前またこんなもん作りやがって!
- ガランガランと、作られて山積みにされたトランクが父によってけり倒された
- 風呂敷屋
- やめてよ父さん!
- 父
- 風呂敷ほど万能なものはないとあれほど言ってるだろう!
- 風呂敷屋
- でも、
- 父
- こそこそトランクなんか作りやがって!
- 風呂敷屋
- 父さん聞いて!
- 父
- 聞きたくねぇ。風呂敷職人を継がずに、トランク職人になりてぇなんていう言葉、聞きたくねぇ聞きたくねぇ。
- 風呂敷屋
- だって世界的なトランクなんです。
- 父
- 風呂敷だってワールドワイドだ!
- 風呂敷屋
- 見てください。
- どかりと、風呂敷屋はトランクを置いた
- 風呂敷屋
- 拝啓ルイ・ヴィトン様。あなたのトランクにつかまって、タイタニック号から助かった人がいたそうですね。ルイ・ヴィトンの鞄の中身だけは水につかるこがなかったそうですね。そんなトランクを、自分も作りたいと思います
- と、そこで父の拳が飛ぶ
- 風呂敷屋
- 痛いな。父さん。仕方がないじゃないか。もうそんな時代なんだよ。
- 父
- そんな時代?お前風呂敷が古いとか思ってんのか!
- 風呂敷屋
- だって、
- 父
- 風呂敷はいつかレトロでオシャレになるんだ絶対。
- 風呂敷屋
- だって父さん、風呂敷には鍵はかからないけど、トランクには鍵がかかるんだよ。個人情報だって漏れようがないんだからさ。
- 父
- そんな秘密な空間を持つようになったからダメになったんだ人ってのは。
- 風呂敷屋
- 古い、古いよ父さん、秘密がないと人は生きていけないと思うけど。
- 父
- 透明性が必要なんだ。見ろ!
- 風呂敷屋
- 父さんそれは!?
- 父
- 新しい風呂敷のカタチだ。ニュータイプだ。
- 風呂敷屋
- 父さん、それはただのビニールシートで丸見えです。父さん、言いたかないけど、もう風呂敷なんか誰も使ってないでしょう?
- 父
- 言うなそれを。盛り返すんだ。いつか絶対。
- 風呂敷屋
- それに父さん、風呂敷きだったらタイタニック号では荷物はすべて海水でやられてしまっていたはずです。僕がルイ・ヴィトンを敬愛する理由はただひとつ。トランクの中身を守った、守りきったことなんです。
- 父
- 商売敵を敬愛するなんて情けねぇ。俺の目の黒いうちはそんなこと許せるか。
- 風呂敷屋
- 痛いな。父さん。痛いな、父さん。痛いな、痛いな、痛いな、いないなぁ…
- 風呂敷屋、たった1人で大きく溜息ついた
- 風呂敷屋
- 父さん。
- カラリと戸が開いて、
- 妻
- あなた。
- 風呂敷屋
- …ああ。
- 妻
- 何を、してらっしゃるの?
- 風呂敷屋
- 自問自答を繰り返している。繰り返して成長しているんだよ。
- 妻
- お1人で?
- 風呂敷屋
- いや。父さんと。
- 妻
- そう。それもひとつの方法ね。
- 風呂敷屋
- 買い物か?
- 妻
- ええ。
- 風呂敷屋
- あ、それ…
- 妻
- ああ、かわいいでしょ。風呂敷なのこれ。最近はやってるんだから。
- 風呂敷屋
- レトロでおしゃれって?
- 妻
- そうそう。行ってきます。
- 風呂敷屋
- いってらっしゃい。
- 風呂敷屋は温故知新を知る
- おしまい