- 丸福コーヒーという難波にある老舗喫茶店。有名だが、本店にはやくざのようないかがわしい感じの人が多いお店。その中でも一番奥の暗い席で。
- カワグチ
- 「なんやと!まだ情報を持ってきてない?」
- ヤス
- 「へい。どうしましょう?」
- カワグチ
- 「うーん。儲かる話が転がる予定やったのに、あいつらケツまくってしまうつもりやろか?」
- ヤス
- 「まさか!うちの組の恐ろしさはよう分かっているとは思いますが。」
- カワグチ
- 「ふん。だから、ネットゲームを取引の場に使うなって忠告しといたのに。とにかくヤス、お前、ちょっくらシバイテこいや。」
- ヤス
- 「へい。」
- カワグチ
- 「ほんませっかくのコーヒーがまずなるわ。」
- コーヒーを飲む親分さん。まずなるはと言いながら、以外においしそうに飲む。
- カワグチ
- 「コーヒーちゅうもんはまず香りって言うが、違うんや。飲むその周りの雰囲気、自分の飲むテンション、そう言うもんでたいてい味が決まる。
ヤス。ワシにおいしいコーヒーを飲めるようにしてくれよ。」
- ヤス
- 「へ、へい。」
- もういっぱい飲む親分。
- カワグチ
- 「おい、ヤス。お前また子供連れていくんか?」
- ヤス
- 「親分、すいやせん。この子には、何もしてやれんので、せめて社会見学でもさせてやろうと思ってるんです。」
- カワグチ
- 「そうかそうか、分かった。ヤスの坊主は名前、ケンヤやったな。ケンヤ。」
- ケンヤ
- 「はい。」(ヤスが二役)
- カワグチ
- 「父ちゃんの仕事はな、世間では肩身の狭い仕事かもしれんが、この世界ではなくてはならんもんなんや。そこんとこ、よー理解してやりや。」
- ケンヤ
- 「はい。親分さん、いつもご指導ありがとうございます。しかもこのコヒーゼリー、絶品ですね。ごちそうさまです。」
- カワグチ
- 「よう出来た子供や。な、ヤス。」
- ヤス
- 「へい、ありがとうございます。」
- カワグチ
- 「ケンヤはいくつになるんや?」
- ケンヤ
- 「はい。今年の9月で、一代も卒業でして。」
- カワグチ
- 「一代?」
- ケンヤ
- 「へい。」
- ヤス
- 「親分さん。9月10日で10歳になりよりますねん。十代にやっとなります。」
- カワグチ
- 「おおそうか。ケンヤ、コーヒーゼリーうまかったか?」
- ケンヤ
- 「へい。ここのコーヒーゼリーは、大人の味がします。ほろ苦い、なんと言ったらいいのか、親父が仕事に失敗して、親分さんとこに泣きついたときの、あの時の、親父の背中みたいな、そんな味がします。」
- カワグチ
- 「おお、ケンヤはようわかっとる。ヤスがうまいこと育てとるわ。おーい店員!この子にもう一杯コヒーゼリー頼むわ。」
- ケンヤ
- 「ありがとうございます。」
- ヤス
- 「ケンヤ、あんまりいらんこと言うなよ。」
- ケンヤ
- 「すまん、親父。自分の立場をようわきまえてるつもりやったが、親分さんを目の前にしたら、舞い上がってしもて、口が饒舌になりよるねん。」
- カワグチ
- 「まあ、とにかくや、あいつらの情報を早く手に入れて戻ってこいや。あいつらはいっぺん痛い目にあわさな、アカンかもな。」
- ヤス
- 「へい。」
- カワグチ
- 「さあ、いったれや!」
- ヤス
- 「へい。」
- ヤス
- 「おい、コヒーゼリー2杯目そこそこにして行くぞ。」
- ケンヤ
- 「親父、ちょう待ってや。さっきはコーヒークリームかけずに食べたけど、2杯目はかけてマイルドにして食べてるんや。」
- カワグチ
- 「ヤス、食べ終わるまでまったり。」
- ヤス
- 「へい。」
- カワグチ
- 「ケンヤ、どんな味がする?」
- ケンヤ
- 「へい。お袋の涙のような味ですわ。」
- カワグチ
- 「そうか。」
- ヤス
- 「ケンヤ、すまんな。いつか母ちゃん迎えに行こうな。」
- ケンヤ
- 「親父が謝る必要はないよ。会いたいときには勝手に行くから。大人の事情はようわかってるつもりや。」
- カワグチ
- 「えらい子やな。」
- ケンヤ
- 「親分さんごちそうさまでした。ほなら親父行こうか。」
- ヤス
- 「そうやな。親分さん、ほな行ってきます。」
- カワグチ
- 「おお、気をつけてな。」
- 出て行く二人
- カワグチ
- 「おーい店員!ワシにもコヒーゼリー頼むわ。コーヒーフレッシュも頼むで。…お袋の涙のような味か…。」
- おわり