- 物語が始まる
- 男
- 僕の目の前にキャンバスがある。油絵を描く白い画材だ
- 女
- 私の目の前に彼がいる。油絵を描く白い男だ
- 男
- 僕は毎日油絵を描いていた
- 女
- 私は毎日彼を見ていた
- 男
- ある日彼女がこんなことを言い出した
- 女
- ねえ、私と油絵どっちが大切なの?
- 男
- 僕はどっちも大切だよと答えた
- 女
- 彼は緑と黄色で草原を描いた
- 男
- 彼女は黒と白で牛を描いた
- 牛の鳴き声が聴こえてくる
- 女
- 彼は丘の上に教会を描いた
- 男
- 彼女は丘の麓に教会を描いた。何で2つあるんだよ
- 女
- ガソリン代のこと考えてる?
- 2つの教会の鐘が鳴る
- 女
- ログハウスの横には大きな車。いくらすると思ってんの?
- 男
- 庭には222羽ニワトリがいる。うちは養鶏所か?
- ニワトリの鳴き声がする
- 女
- 彼は赤白黄色でチューリップを描いた
- 男
- 彼女は画溶液でそれを消した
- 女
- それを消した勢いで他のすべても消した
- 全部の音が消える
- 女
- ねえ、私と油絵どっちが大切なの?
- 男
- 彼女はいつもそう言いたそうだった
- 女
- 彼は私に夢を語った
- 男
- 朝、ログハウスのテラスで、絞りたての牛乳と生みたての卵で朝食を取る。教会の鐘を聴きながら、平和だなあって、くだらないこと言って笑いあう。午後はドライブに出かけ、草原に走る一本道を、今にも離陸しそうな勢いで海まで走る。そして、空は…空は…
- 女
- 広い空は真っ白なまま、彼は創作を中断した
- 男
- 絵の具がなくなったのだ
- 女
- ねえ、いつ完成するの?
- 男
- もうちょっと待ってくれ
- 女
- 未完成の絵はどんどん乾いていく
- 男
- それでも僕は、絵を飾り続けた
- 料理をする音
- 女
- 朝、ログハウスで卵焼きを作る。ふと、窓の外を見ると、空がない…
- 男
- 午後、卵焼きを持って、海に行く。しかし、目の前に広がる2分の1は、真っ白で…ふと、横を見ると、彼女も消えかかっていた
- 料理をする音が消えて行く
カーテンを開ける音
- 女
- 彼は部屋のカーテンを開けた。ああ、夕陽が綺麗…
- 男
- 彼女は窓を開けた。ああ、風が冷たい…
- 女
- 私は外に出る前にもう一度、彼の絵を見た。すると、そこには…
- 男
- なんと…
- 男女
- 完成された絵があった
- 女
- 真っ白だった空が、真っ赤な夕焼け色に染まっている!
- 男
- 真っ白になった彼女が、真っ赤な夕焼け色に染まっている!
- 女
- 私たちは、絵の具がなくても綺麗な絵が描けることを知った
- 男
- 僕たちは、笑顔と涙で幸せ色を作り、キャンバスの裏に名前を書いた
- 女
- そして、私たちは今…
- 男
- ログハウスのテラスで朝食を食べている
- 草原の牛と222羽のニワトリたちが鳴いている
丘の上と麓の2つの教会の鐘が鳴っている
- 女
- 平和で幸せね
- 男
- え? 何て?
- 女
- 平和で!
- 男
- 何? 平和? 聴こえない!
- 女
- 平和でえ!!幸せね!
- 男
- え、平和のあと、何て!
- 女
- し!あ!わ!
- 男
- ちょっと、牛、黙れ!!
- 笑いあう男女
- 終