物語が始まる
僕の目の前にキャンバスがある。油絵を描く白い画材だ
私の目の前に彼がいる。油絵を描く白い男だ
僕は毎日油絵を描いていた
私は毎日彼を見ていた
ある日彼女がこんなことを言い出した
ねえ、私と油絵どっちが大切なの?
僕はどっちも大切だよと答えた
彼は緑と黄色で草原を描いた
彼女は黒と白で牛を描いた
牛の鳴き声が聴こえてくる
彼は丘の上に教会を描いた
彼女は丘の麓に教会を描いた。何で2つあるんだよ
ガソリン代のこと考えてる?
2つの教会の鐘が鳴る
ログハウスの横には大きな車。いくらすると思ってんの?
庭には222羽ニワトリがいる。うちは養鶏所か?
ニワトリの鳴き声がする
彼は赤白黄色でチューリップを描いた
彼女は画溶液でそれを消した
それを消した勢いで他のすべても消した
全部の音が消える
ねえ、私と油絵どっちが大切なの?
彼女はいつもそう言いたそうだった
彼は私に夢を語った
朝、ログハウスのテラスで、絞りたての牛乳と生みたての卵で朝食を取る。教会の鐘を聴きながら、平和だなあって、くだらないこと言って笑いあう。午後はドライブに出かけ、草原に走る一本道を、今にも離陸しそうな勢いで海まで走る。そして、空は…空は…
広い空は真っ白なまま、彼は創作を中断した
絵の具がなくなったのだ
ねえ、いつ完成するの?
もうちょっと待ってくれ
未完成の絵はどんどん乾いていく
それでも僕は、絵を飾り続けた
料理をする音
朝、ログハウスで卵焼きを作る。ふと、窓の外を見ると、空がない…
午後、卵焼きを持って、海に行く。しかし、目の前に広がる2分の1は、真っ白で…ふと、横を見ると、彼女も消えかかっていた
料理をする音が消えて行く
カーテンを開ける音
彼は部屋のカーテンを開けた。ああ、夕陽が綺麗…
彼女は窓を開けた。ああ、風が冷たい…
私は外に出る前にもう一度、彼の絵を見た。すると、そこには…
なんと…
男女
完成された絵があった
真っ白だった空が、真っ赤な夕焼け色に染まっている!
真っ白になった彼女が、真っ赤な夕焼け色に染まっている!
私たちは、絵の具がなくても綺麗な絵が描けることを知った
僕たちは、笑顔と涙で幸せ色を作り、キャンバスの裏に名前を書いた
そして、私たちは今…
ログハウスのテラスで朝食を食べている
草原の牛と222羽のニワトリたちが鳴いている
丘の上と麓の2つの教会の鐘が鳴っている
平和で幸せね
え? 何て?
平和で!
何? 平和? 聴こえない!
平和でえ!!幸せね!
え、平和のあと、何て!
し!あ!わ!
ちょっと、牛、黙れ!!
笑いあう男女