- 女
- こんな早くに、よく帰ってこられたね。
- 男
- ギリギリで最終の飛行機に間に合ってさ。
- 女
- どっちにしたって骨になっちゃったんだから、慌てなくて良かったのに。
- 男
- そんなこと言う?
- 女
- 努力に水さすようなこと言っちゃいけないね。
- 男
- 姉さん、任せきりにして、ほんとすまなかった。大変だったろ。
- 女
- いいの。こないだ帰って来たとき、そんな話したでしょ。あなたは日本に居ないんだから、なにかあった時は私が引き受けるって。
- 男
- あん時は冗談半分だったし。
- 女
- こんな早くに・・・ね。
- 男
- ぜんぜん実感湧かねーよ。
- 女
- 私も。ふっと、父さんどこ出かけたんだろって思っちゃうのよね。
- 男
- 母さんは?
- 女
- さっき、パーマ屋さんに行った。
- 男
- パーマ屋。
- 女
- これからが私の青春よっとか言っちゃって。
- 男
- 案外ケロっとしてるんだな。
- 女
- ケロっとしてるっぽいけど・・・。
- 男
- え、どうなの実際。
- 女
- よくわかんない。通夜も式ん時も、別に泣いたりもしなくて、普通な感じで。
- 男
- 離婚するだの、顔みるのも嫌やだの言ってたし。せいせいしたって感じなのかな。
- 女
- かたっぽ、ツッカケだったのよ。
- 男
- え、なにが?
- 女
- 火葬場で、ふっと母さんの足元見たら、右は黒のヒールで、左足につっかけはいてて。
- 男
- どういうこと?
- 女
- うまく説明できないけど、母さん、地に足ついてないんだって思ったの。
- 男
- 嬉しくて。
- 女
- バカ。
- 男
- 地に足がついてないって嬉しい状態のこと言うんだろ。
- 女
- なんて言うか、ごそっと、大事な部分がもぬけの殻になったような感じ?その辺は、伴侶を持ってるキミの方がわかるんじゃない。
- 男
- 女の気持ちは、女の方がわかるっしょ。
- 女
- あ、ミサキちゃんは?
- 男
- あいつ来たがってたんだけど・・・。
- 女
- 交通費もバカにならないしね。
- 男
- じゃなくて、あいつね・・・。
- 女
- え、オメデタ?
- 男
- まあ。
- 女
- ほんとに、良かったじゃない。
- 男
- もうちょっと生きててくれたら、会わせてやれたのに。
- 女
- ・・・きっとこれが、一番いいタイミングだったのよ。一人減って、一人増えて。
- 男
- そうかな。そうなのかもな。
- 女
- 母さんも、地に足つくかもね。
- 男
- 今度は、三人で帰ってくるよ。
- 女
- そん時までに、私も彼氏みつけなきゃね。
- 男
- こないだもそんな事言ってた気がする。
- 女
- おそうめんでもいかが。お腹すいたでしょ。
- 男
- あ、ごまかした。
- 女
- うるさい。
- チリンと風鈴が鳴る。
- 男
- あー、いい風だ。
- 女
- うん。
- 終わってまた始まる