- 面接官
(オーディション)参加者
- 面接官
- えー、次は・・・。エントリーナンバー85番の方。
- 参加者
- (がたっというイスから立ち上がる音)はいっ!
- 参加者は、極度に緊張している。頭に血が上っているようだ。人の話をまともに聞けないくらい。
いわゆる「テンパっている」状態である。
- 参加者
- よろしく!・・・。おねがいしますっ!
- 面接官
- (苦笑)・・ええ。そんな緊張なさらないで。
- 参加者
- すいませんっ!
- 面接官
- こういうオーディションは始めてですか?
- 参加者
- いえ!結構何度も受けさせていただいております!
- 面接官
- ああそうですか・・。えーと。ではですね。お名前を教えていただけますか?
- 参加者
- はいっ!あの、自分、フクイケン(「福井県」のイントネーション)ですっ!
- 面接官
- はい?
- 参加者
- あ!ごめんなさい。間違えましたっ!
- 面接官
- あーいえいえ。大丈夫ですよ。
- 参加者
- すいません!
- 面接官
- いえいえ。えーと。
- 参加者
- はい!
- 面接官
- ご出身地が?
- 参加者
- チバ(「千葉真一」のチバのイントネーション)です。
- 面接官
- え?
- 参加者
- チバケン(「千葉健」という人名のイントネーション)です。
- 間
- 面接官
- 「千葉県」?
- 参加者
- はいっ!(名前を呼ばれて返事をするニュアンス≠肯定の「はい」)
- 面接官
- えー・・・。
- 参加者
- はい。
- 面接官
- えと、じゃお名前が「福井」さん
- 参加者
- 「福井県」です。
- 面接官
- ・・・。福井,ケン(健)、さん。
- 参加者
- はい。福井県です。はい。
- 面接官
- 「福井さん」
- 参加者
- 「福井産」。はい。
- 面接官
- え?ですよね?
- 参加者
- はい。産まれました。
- 面接官
- え産まれた?
- 参加者
- あ、ごめんなさい違います!どうしよう!あの産まれたのは、違います。
- 面接官
- えーと。今とりあえず産まれた所とか忘れてください。
- 参加者
- はい!忘れます!んー・・んー・・(と忘れる努力をしているようだ)
- 面接官
- あの・・・
- 参加者
- はいっっ!
- 面接官
- いえ。はい。で、「お名前」は
- 参加者
- 秋田ですっ!
- 間
- 参加者
- えー産まれたのは
- 面接官
- 産まれた所いいですから。
- 参加者
- すいません。くそぅ・・・んー・・(と忘れようとする)
- 面接官
- あの、「秋田さん」なんですね。
- 参加者
- はいっ!「秋田産(というイントネーション)」ですっ!
- 面接官
- ・・・。秋田、何?さんですか?
- 参加者
- はい?
- 面接官
- 下の名前は?
- 参加者
- 下。秋田の、下、は。山形
- 面接官
- やっぱりですか。
- 参加者
- え?あ、あ!すいませんケンです。
- 面接官
- 秋田、健さんですか?
- 参加者
- そうですね。はい。
- 間
- 面接官
- えー。秋田さんの、何か特技か何かありますか?
- 参加者
- 「特技」?えー・・ああ、「特技」と言いますか・・その、「樺細工」ってご存知でしょうか?桜の木の皮を使った、あの、オチャッパを入れる筒とか。
- 面接官
- それを、作られるんですか?
- 参加者
- はい。職人さんが、すごい、こう・・・技術がね。手間も随分かかるらしいです。
- 間
- 面接官
- 失礼。「あなたのお名前」が
- 参加者
- 「私の名前」が、
- 面接官
- 「秋田健さん」
- 参加者
- 秋田健
- 面接官
- ですよね?
- 参加者
- はい。わかりました。
- 面接官
- え?
- 参加者
- はい。
- 面接官
- え?
- 参加者
- (小声で)「秋田健」・・・「秋田健」・・・。
はい。大丈夫です!(「秋田健」という役名を与えられたというふう)
- 面接官
- え?だから秋田さんなんですよね?
- 参加者
- 「俺はぁ、秋田だ!(芝居がかって)」
- 面接官
- いやあの
- 参加者
- あ、ごめんなさい。調子に乗りましたすいません!
- 面接官
- ええ。えーと。私、もうずいぶんとめんどくさくなってきてますけど。
- 参加者
- はい。
- 面接官
- 今まだ、あなたのお名前の話をしてるんですよ。
- 参加者
- はい。すいません。
- 面接官
- 名前。氏名です。
- 参加者
- はい
- 面接官
- わかりますよね?
- 参加者
- 秋田の使命は、え、地球を、
- 面接官
- いや違います!秋田の使命じゃなくて、あなたの。
- 参加者
- 私は、何の為に
- 面接官
- 名前ですよ名前!
- 参加者
- 名前。秋田ではない私の・?もう一人の私が・・・
- 面接官
- いやだから、そうか・・
- 参加者
- あだ名ということでしょうか?(テンパっているのと追いつめられたので泣き始めてしまう)
- 面接官
- ああ、もういいです。
- 参加者
- すいません!本当にすいません!自分、不器用で・・・
- 面接官
- もう結構ですから。
- 参加者
- やっぱり、生まれ故郷を忘れることはできません!
- 面接官
- はい。もう帰ってください。
- 参加者
- 帰りたいんです!でも親に合わせる顔がないんです!
- 面接官
- お引き取りください!
- 参加者
- お願いします!一旗揚げるまでは帰れないんです!(などなど・・)