寂れた団地の一室。台所で父が新聞を見ながら紙に字を書いている。
(字を書きながら)い、ち、ば、れ、る。
書きやすい?
(字を書きながら)さ、ぶ、ぷらい、む、ろーん。
すっごい書きやすいやろそれ。
うん。
うちの人が得意先からもらってん。高いらしいよ。
…。
もらいもんやけどオトウサンにって。
(少しだけ皮肉に)はいはい、ありがとうございます。
赤ん坊が泣く。娘はあやす。
父は新聞の別の面を広げ。
(字を書きながら)ら、く、てん、の、む、ら。ア、ニ、キ、に、あ、ん、だ。
お礼の電話とかしてよ。
はぁ?
お礼よ。電話でいいから。
(字を書きながら)さ、や、か。泣く。
(赤ん坊に)なかへんもんなーサヤちゃんは、
(字を書きながら)よしだ、さ、や、か。号、泣。
アホなこと書かんといて。
赤ん坊は泣き止む。
お母ちゃん遅いな。
フラメンコや。
え、でも午前中で終りやろ。
そのあとファミリーレストランよらはるねん。昼間から宴会や。
楽しそう。
アホか。
お父ちゃんもいったら?
そんなアホなことできるか。
ちょっとは外でな病気なるで、
うるさい。
会社の人とかつながりないの?
あるかそんなもん。
何しにきたんや。からかいにきたんか。
さっき産婦人科いってきた。
うん。
また女の子やって。
そうか。おめでとう。
なんや。またアホなこといわれたんか?
うちの人はなんもいわへんけど…
ややこしいとこ嫁いだな。年寄りがアホなこと言うたら、すぐ言うてこいよ。
お父ちゃんがしばきにいったるわ。
……うん。
お父ちゃんは男の子ほしかった?
全然。
ほんま?
ほんま。
(字を書く)か、ぞ、く。
家族。
おわり