- 千住真理子のアルバム「G線上のアリア」より
「G線上のアリア」が居間のステレオから流れている
- 娘
- お父さん、音がすごく綺麗
- 父
- 里美はヴァイオリンが好きだな
- 娘
- コレ何て言うの?
- 父
- 曲の名前?
- 娘
- うん
- 父
- G線上のアリア
- 娘
- アリア
- 父
- 千住真理子さんっていう人が弾いてるんだよ
- 娘
- いつもの音より綺麗
- 父
- おお、里美は違いが分かるのか
- 娘
- うん、いつもはね、ヒューって感じだけど、コレはね、アーって感じ
- 父
- 里美、すごいな
- 娘
- 何かね、コレはね、お空で歌ってるみたい
- 父
- おお…(台所へ向かって)お母さーん、天才発見!
- 台所の食器の音や水の音
- 父
- あれ? 聞こえてない…?
- 娘
- はい、無視されたあ
- 父
- 無視じゃないですぅ。ああ、おなか空いてきた
- 娘
- ねえ、コレ?コレ?
- 父
- ん?
- 娘
- この人がアリアさん?
- 父
- 真理子さん。千住真理子さん
- 娘
- あれ?
- 父
- それがアリアさんなら、この曲、「G線上のマリコ」になっちゃうよねー、うひゃひゃひゃ(と、一人笑いして)あれ?
- 娘
- どういう意味?
- 父
- いや、別に
- 娘
- ねえ、何でこんなに綺麗なの?
- 父
- ああ、真理子さん、綺麗だよねえ
- 娘
- え?
- 父
- え?
- 娘
- ヴェイオリンの音だよ?
- 父
- あ、そっちか
- 娘
- (台所へ向かって)お母さーん、浮気発見!
- 父
- コラっ
- 台所の食器の音や水の音
- 娘
- お母さーん
- 父
- おい、言いに行かなくていいから。このね…ホラ、座って。このね、千住真理子さんの弾いてるヴァイオリンはね、特別なヴァイオリンなんだ。遠い国からお空を飛んでやってきたんだよ
- 娘
- え、お空?
- 父
- さっき、里美が、お空で歌ってるみたいに聴こえたのは、そのせいかもね
- 娘
- どこからきたの?
- 父
- 約300年前。ずっとずっと昔…
- 娘
- ずっとずっと昔?
- 父と娘の想像が300年前に飛ぶ
- 父
- イタリアにヴァイオリンを造るのがとっても上手な職人さんがいたんだ。その人の作ったヴァイオリンは「ストラディヴァリウス」って呼ばれて、とても人気があった。その中でも特に上手に作れたヴァイオリンの名前が「デュランティ」って言うんだ。「デュランティ」はイタリアからフランス、フランスからスイスに旅をした。その約300年間、誰にも演奏されることなく大切に守られていたんだ。そして、つい6年前、あるスイスのお金持ちがその「デュランティ」を手放した。幻のヴァイオリン。世界中のヴァイオリン弾きがほしがった。でも、「デュランティ」は日本にやって来た。そして、千住さんの手に渡ったんだ
- 娘
- ねえ、何で、千住さんのところに来たの?
- 父
- それは、「デュランティ」が千住さんのところがいいなって思ったんじゃない?
- 娘
- 何か、人みたい
- 父
- 面白いだろ
- 娘
- いいなあ。私も千住さんみたいなことしたい
- 父
- 大人になったら出来るよ
- 娘
- え? ホントに?
- 父
- うん。里美の「デュランティ」は、すでにこの世界のどこかにいるよ
- 終