(外で救急車のサイレンが鳴り響いているが、やがてサイレンは遠ざかっていく)
まだ、片付けてたの?
そう・・・・・どれを残してどれを捨てたらいいのか分かんないの
・・・・残すものなんてないのに・・・・・何かあったの?
ああ・・・・交通事故だって。
そう・・・・・。
なんか・・・・・すごく静かになったな・・・・・・。
そうね・・・・・誰もいないみたい。
まるで、オレもいないみたい・・・・・。
え?
(少し笑って)なんでもない・・・・・・どうしたの、これ?
さっき果物屋さんがくれたの、食べる?
何でコップにいれてるの、苺。
だって・・・・・お皿とかないじゃない?
そうだな。
なあ・・・・・・憶えてないか、ジュース屋ごっこ。
え?
憶えてるわけないよな・・・・ずっと昔の子供の頃の話だから。
オレも、今になって思いだしたぐらいだし・・・・・・。
コップに苺を入れて・・・グチャグチャに潰したんだっけ?
そう、それ!
(男が笑顔になるのでつられて女も笑ってしまう)
なあ・・・・結局、苺ジュースってどんな味だった?
したことは覚えてるのに味が思い出せない。
もう1回、やってみる?
え・・・・いいの?
割り箸・・・・あったと思うんだよね・・・・あった、はい。
うん、サンキュ。
(2人、コップの中の苺を割り箸で潰していく)
オレさ・・・・・・毎日毎日ここのカギ閉めてたんだよ。
閉めるたんびに、次の朝にまた開店するから寝坊できないなって考えてて、もう・・・・明日になったら遅刻したって文句1つも言われない。
誰も準備なんてしないし、買い物にも来ないんだなあ・・・・・誰も。
そんなこと今まで考えたことなかった・・・・・・・。
スーパーのことは仕方ないよ・・・どうしようもないよ。
そうじゃなくってさ・・・・・何て言ったらいいのか、バカでかっこわるいなあ、オレは。
なんか、今だったら色んなこと見えてくる・・・・皮肉なもんだよ。
一杯ありすぎて、どうしたらいいか分かんないけど・・・・・ごめん。
飲もう、苺ジュース。
なんか、最後に良かったよ・・・・・・・ずっと気になってたから。
色んなこと見えたり分かったりする割に、どれも不確かな気がして。
この想い出すら・・・本当にあったことか、わかんなくなって。
(優しく)ね・・・・飲んでみようよ。
ああ・・・もう行かなきゃいけないからな。
(遠くで救急車のサイレンが聞えてくる。)