- (外で救急車のサイレンが鳴り響いているが、やがてサイレンは遠ざかっていく)
- 男
- まだ、片付けてたの?
- 女
- そう・・・・・どれを残してどれを捨てたらいいのか分かんないの
・・・・残すものなんてないのに・・・・・何かあったの?
- 男
- ああ・・・・交通事故だって。
- 女
- そう・・・・・。
- 男
- なんか・・・・・すごく静かになったな・・・・・・。
- 女
- そうね・・・・・誰もいないみたい。
- 男
- まるで、オレもいないみたい・・・・・。
- 女
- え?
- 男
- (少し笑って)なんでもない・・・・・・どうしたの、これ?
- 女
- さっき果物屋さんがくれたの、食べる?
- 男
- 何でコップにいれてるの、苺。
- 女
- だって・・・・・お皿とかないじゃない?
- 男
- そうだな。
なあ・・・・・・憶えてないか、ジュース屋ごっこ。
- 女
- え?
- 男
- 憶えてるわけないよな・・・・ずっと昔の子供の頃の話だから。
オレも、今になって思いだしたぐらいだし・・・・・・。
- 女
- コップに苺を入れて・・・グチャグチャに潰したんだっけ?
- 男
- そう、それ!
- (男が笑顔になるのでつられて女も笑ってしまう)
- 男
- なあ・・・・結局、苺ジュースってどんな味だった?
したことは覚えてるのに味が思い出せない。
- 女
- もう1回、やってみる?
- 男
- え・・・・いいの?
- 女
- 割り箸・・・・あったと思うんだよね・・・・あった、はい。
- 男
- うん、サンキュ。
- (2人、コップの中の苺を割り箸で潰していく)
- 男
- オレさ・・・・・・毎日毎日ここのカギ閉めてたんだよ。
閉めるたんびに、次の朝にまた開店するから寝坊できないなって考えてて、もう・・・・明日になったら遅刻したって文句1つも言われない。
誰も準備なんてしないし、買い物にも来ないんだなあ・・・・・誰も。
そんなこと今まで考えたことなかった・・・・・・・。
- 女
- スーパーのことは仕方ないよ・・・どうしようもないよ。
- 男
- そうじゃなくってさ・・・・・何て言ったらいいのか、バカでかっこわるいなあ、オレは。
なんか、今だったら色んなこと見えてくる・・・・皮肉なもんだよ。
一杯ありすぎて、どうしたらいいか分かんないけど・・・・・ごめん。
- 女
- 飲もう、苺ジュース。
- 男
- なんか、最後に良かったよ・・・・・・・ずっと気になってたから。
色んなこと見えたり分かったりする割に、どれも不確かな気がして。
この想い出すら・・・本当にあったことか、わかんなくなって。
- 女
- (優しく)ね・・・・飲んでみようよ。
- 男
- ああ・・・もう行かなきゃいけないからな。
- (遠くで救急車のサイレンが聞えてくる。)