下校の時間
車の通る音

男

今日の宿題、めっちゃ多くない？

女

多いねー

男

ゆきちゃん、出来る？

女

出来るよ

男

俺も出来るけど

女

算数、苦手なんちゃうの？

男

苦手

女

出来る？

男

出来ひん

女

どっちなん

男

あ、ゆきちゃん、明日給食袋忘れたらあかんで

女

忘れへんって

男

うん

女

ありがとう

男

…じゃあ、また明日

女

うん、バイバイ

男

バイバイ

女の去る足音

男

バイバイ！

女

（やや遠くから）バイバイ！

女の遠ざかる足音

男

バイバーイ！

女

（遠くから）バイバーイ！

車のクラクション

男

「あっ、ゆきちゃん、危ない！　おー、危なかったあ。あ、こっち向いた。え、笑ってる。今、轢かれかけたのに何で笑ってんの？　うわあ、可愛い。可愛すぎ」バーイバーイ！

女

（遠くから）バーイバーイ！

男

「嬉しい。嬉しすぎ。ああ、もう文房具屋の角曲がっちゃう。あんな角、無くなればいいのに。ああ、もうあかん」バーイバーーイ！

女

（遠くから）バーイバーーイ！

男

「女の子やのに恥ずかしくないんかなあ。俺のこと、好きなんかなあ。俺はめっちゃ好きやなあ。決めた。もし、ゆきちゃんが、次、返事してくれたら、俺、明日告白する」（息を吸って）バーーイバーーーイ！！

女

（かなり遠くから）バーーイバーーーイ！！

男

「好きです！　大好きです！　付き合って下さいませ！　言えるかなあ。やっぱ、もう一回、返事してくれたら、告白しよっかな…そうやな」（思いっきり息を吸って）バーーーイバーーーーイ！！

車の通る音

男

「あ、車通った。今のなし。もう一回」（思いっきり息を吸って）バアアアアアイ！バアアア…

大目玉を食らう音（爆弾の落ちたような音）

男

「（力なく笑って）そういえば、ＰＴＡのおっちゃんに大目玉食らったなあ。うるさいぞ！　何回、バイバイ言うとんねん！　近所に声が響いとるのが分からんのか！　って、怒ってはったなあ。怒りたいのはこっちやねんけどなあ。ゆきちゃんの最後のバイバイ、ひょっとしたら聞けとったかも知らんのに。どうしてくれんねん。最後のバイバイ、返して。なあ、今すぐ返して。返して下さい」

バイバーイ！と女の声が響く

男

「あ、ゆきちゃん！？…んなはずないがな。あー、『また明日』って素敵やったなあ。それで『明日』会えることが素敵やったなあ」

マシンガンの音

男

「ゆきちゃん、今でも好きやでー。よし、決めた。もし、次、返事してくれたら、今度こそ告白する」（息を思いっきり吸って）バイバーーーイ！

戦車の通る音

男

「あ、戦車通った。今のなし。もう一回」（息を吸って）（力なくため息）

マシンガンの音

男

「誰か、怒って。ＰＴＡのおっちゃん、怒ってや。マシンガンの音、近所に響いてるんちゃうん？　バイバイはあかんくて、コレはええの？　ゆきちゃん、どう思う？　なあ、ゆきちゃん…」

戦場の音が大きくなって行き―

男

「ああ、めっちゃ宿題多い…幸せ…」

終