- 女
- 私の彼は、もうすぐ三十になりますねん。
- 男
- はいはい。
- 女
- 作家目指してるとかやらで、長い長~いバイト暮らし。
- 男
- ほおほお。
- 女
- 毎月、自分の食いぶちすら危ういんですわ。
- 男
- おやおや。
- 女
- なのに、子猫を拾ってきやがった。
- 男
- みゃー。
- 女
- 何がみゃーや、もうっ。
- 男
- 猫好きでしょ。
- 女
- だから、もう二匹も飼ってるやん。君が拾った猫、二匹も。
- 男
- あ!サンタさんからのプレゼントちゃうか。
- 女
- 猫、欲しいなんて頼んでないし。
- 男
- みゃー子、こんなひどいこと言われてるで。引っかいたれ。
- 女
- 名前付けんなー。
- 男
- でも可哀想やろ。放っといたら絶対に死んでまうねんで。
- 女
- わかった。
- 男
- 飼っていいの?
- 女
- 子猫の代わりに、ジュンを箱に入れて公園に置いてくる。
- 男
- え。
- 女
- もう違う人に飼ってもらいなさい。
- 男
- え、飼われてたの俺。
- 女
- 知らなかったんや。
- 男
- そりゃ、ここはヒロコちゃんの家や。けど、家賃は払ってる。
- 女
- 時々ね。
- 男
- 飯は・・・食わせてもらってる。
- 女
- 洗濯も掃除もしてるし、お風呂もわかしてあげるし。おこずかいも時々。
- 男
- 出世払いや。
- 女
- いつ出世すんねん。
- 男
- 信じられなーい。ヒロコちゃん、なんでそんな男と付き合ってんの。
- 女
- 他人事にしない。
- 男
- あ、俺か、俺のことかー。はっはっはっ。
- 女
- 私、時々猫見てるとムカツクことがあんねん。
- 男
- え、なんで。
- 女
- だって、猫って自分が可愛いこと知ってるんやもん。世話させてやってんねん、こんな可愛い僕のことを、ぐらいにしか思ってないの。感謝なんかこれっぽちもしてないの。
- 男
- 感謝してると思うで、多分、猫なりに。
- 女
- そうかな。
- 男
- 頼んない奴でごめんな。
- 女
- え。
- 男
- 寒いやろなあ、外。
- 女
- 出てく気?
- 男
- ・・・。
- 女
- ねえ。
- 男
- みゃー子、許せよ。
- 女
- え、猫?猫を捨てに行くん?
- 男
- だって、しゃあないやん。
- 女
- 話の流れからいけば、出てくのは君やん。そんで、私が行かないでとか言って、走って追いかけて、熱い抱擁、んで話うやむやになって・・みたいな。
- 男
- 俺は、猫より自分が大事やし。
- 女
- なんやそれ。
- 男
- 自分より、ヒロコちゃんが大事やし。
- 女
- 私すんごい悪者みたいやん。
- 男
- ごめんなぁ、みゃー子ぉ。
- 女
- もう、いい。いいよ、わかった。
- 男
- いいの?
- 女
- もうこれ以上は無理やからね。
- 男
- おう。
- 女
- 飼えそうな人も探してみてよ。
- 男
- うっす。
- 女
- ・・・なんでこうなるんやろ・・・。
- 男
- 俺、頑張るし。
- 女
- え、うん。
- 男
- 猫の食いぶちくらいなんとかせなな。
- 女
- 猫だけかい。
- 終わってまた始まる