- 体温計が計測完了の音をつげる。
- 男
- 何度?
- 女
- え?
- 男
- 今、体温計、ピピッて。
- 女
- あ・・・七度五分。
- 男
- けっこう熱あるし、今日は、バイト休ませてもらいな。
- 女
- 一人で寝てんのん、寂しいなぁ。
- 男
- 俺は行くで、仕事。
- 女
- 休もうよー。
- 男
- あーほ。
- 女
- やな夢みてん。
- 男
- どんな。
- 女
- 同じ夢、何回も見る?
- 男
- 俺?
- 女
- うん。
- 男
- 多分ないな。夢なんかほとんど覚えてへんし。
- 女
- そっか。
- 男
- そんなに何回も見る夢なん。
- 女
- 同じって言うか、ほんまに別の世界に行ってるみたいな・・・。
- 男
- あ!
- 女
- ん?
- 男
- 熱でた時、おでこに張るやつがあったかも。
- 女
- ひんやりするやつ。
- 男
- ええと、どこにしまったかなぁ(引き出しなどを探す)。
- 女
- あんな。
- 男
- はいよ。
- 女
- だーい好きやで。
- 男
- わかってるでぇ。・・・お、あったあった。
- 女
- ・・・。
- 男
- ど、どないしたん。
- 女
- わからん。風邪ひいてるけど、今めっちゃ幸せやな、って思て。
そしたらなんか涙でてきた。
- 男
- 弱っとるのお。
- 女
- ある日な突然、みんな、世界中の人がみーんな、怪獣になってまうねん。
- 男
- 夢の話?
- 女
- うん。あたしはな、ずうっと怪獣と戦い続けてる。
- 男
- 怪獣ってゴジラみたいなん?
- 女
- ・・・赤黒い、モップみたいな、イソギンチャクみたいな・・・。
- 男
- 触手いっぱいあって、ぬめぬめしてるような?
- 女
- そう、そんな感じ。その怪獣たちはな、絶対に死なへんねん。
刀で切っても、銃で撃っても、爆弾投げつけても。
- 男
- ほれ。
- 女
- えっ、何?
- 男
- ひやっこくて気持ちエエやろ。
- 女
- 目ぇの上にまで張ることないやん。
- 男
- 剥がすな。
- 女
- え?
- 男
- ある日、一匹の怪獣が訪れこう言う。お前は一人ぼっちで、
一体何と戦っているんだって。
- 女
- 何であたしの夢・・・。
- 男
- 我々のことをお前は怪獣と呼ぶが、お前こそ、
この世の平和を乱す凶悪なモンスターではないか。
- 女
- ねえ、冗談やめてや。
- 男
- 我々の仲間になれば、飢えることも、老いることも、病に苦しむこともない。
- 女
- そんなん、嫌や。
- 男
- 俺のこと好きって言ってくれたろ。
- 女
- 好きや、好きやけど・・・。
- 体温計が計測完了の音をつげる。
- 男
- 何度?
- 女
- え?
- 男
- 今、体温計、ピピッて。
- 女
- あ、えと、七度五分。
- 終わってまた始まる