- 打ち上げ花火の音
- 夏の虫の音
- 男
- 「去年の夏、僕は彼女と世界一の花火を見に行った。ところが、僕は、世界一の花火を見逃した。ホント、バカな話だ。これはまあ、彼女のせいなんだけど。その、見逃した理由っていうのが…」
- セミの鳴き声
- 女
- ねえ、この写真、懐かしいね
- 男
- コレ、どこだっけ
- 女
- 片貝祭り。世界一の花火の
- 男
- ああ、アレか
- 女
- すごかったよね、花火
- 男
- ああ、すごかったね。このリンゴ飴もすごかったなあ。舌が真っ赤になって。アハハ
- 女
- 花火の写真って全然撮ってなかったね。覚えてる? 世界一の花火
- 男
- もちろん。忘れるわけないでしょ。ねえ、コレって、マキちゃん?
- 女
- あ、それはっ
- 男
- え、何、こんなに猫、飼ってたの?
- 女
- ダメ
- 男
- コレ、どこ?
- 女
- 実家
- 男
- いつ頃?
- 女
- たぶん中学かな。ハイ、終わり
- 男
- 何で
- 女
- 恥ずかしいから
- 男
- 猫見るだけ。コレって、ペルシャだよね
- 女
- え、分かる?
- 男
- うん、僕も猫好きだから。コレは、アメリカンショートヘアー
- 女
- へえ、詳しいんだ。トシ君は、この中でどれが好き?
- 男
- うーん…コレ
- 女
- ちょっとっ。猫の中で
- 男
- コレ
- 女
- 私、猫じゃないから
- 男
- コレ
- 女
- だからあ
- 男
- コレ
- 女
- もう
- 男
- コレ
- 女
- ちょっと、ひつこい~(と、笑う)
- 男
- (笑う)
- 男女の幸せそうな会話に、秋の虫の音が被って行く
- 男
- じゃあ、撮るよ
- 女
- タイマーで撮るの?
- 男
- いや、リモコン。ココを押したら撮れるんだよ
- 女
- へえ
- 男
- じゃあ、撮ろうか
- 女
- 新たなアルバムの1枚目ね
- 男
- そうだね
- 女
- 指で「1」ってやる?
- 男
- あ、やろっか。じゃあ、記念すべき1枚目。行くよ
- 女
- あ、ちょっと待って。トシ君も「1」ってやったら「2」になっちゃうよ
- 男
- あ、そっか。じゃあ、1枚目はマキちゃんが「1」ってやって
- 女
- うん。2枚目はトシ君も「1」ってやっていいよ
- 男
- うん。どんどん増やして行くんだね
- 女
- そう
- 男
- ということは、4枚目は普通にピースしているだけになるね
- 女
- あ、ほんとだ
- 男
- え、でも、21枚目からはどうするの?
- 女
- あ、どうしよ
- 男
- じゃあ、足の指、使う?
- 女
- (笑って)それ、いいね
- 男
- じゃあ、41枚目からはどうしよ
- 女
- どうしよ
- 男
- 子供の指、使う?
- 女
- あ、それ、いいね
- シャッターの音(カシャ)
- 男
- 「去年の夏、僕は彼女と世界一の花火を見に行った。ところが、僕は、世界一の花火を見逃した。ホント、バカな話だ。これはまあ、彼女のせいなんだけど。その、見逃した理由っていうのが…世界一の花火を見る、世界一の横顔を見ていたからだ。世界一の世界一は、宇宙一だった。彼女は今、僕のギネスブックに載っている」
- 終