- 夕暮れの田舎道。
自転車をこぐ父と、後ろに乗る娘。
- 娘
- なあ、お父ちゃん。
- 父
- ん。
- 娘
- 覚えてる?アタシ小学校ん頃、鉄棒から落ちて、怪我して、
学校まで迎えに来てくれたん。
- 父
- ん、ああ。
- 娘
- あん時も自転車やった。自転車で迎えに来たな。
- 父
- せやったかな。
- 娘
- お父ちゃん、うっすいステテコはいて、汗びっしょりかいてるから、それがべったり体に張り付いて、しかも怪我した言うてんのに自転車でて、カッコわるうて、恥かしいてな。
- 父
- 段やで。
- 娘
- え、うん。
- 二人を乗せた自転車は、ガタンと段差を降りる。
- 父
- 大丈夫か?
- 娘
- 平気平気。
- 父
- ん。
- 娘
- あん時はなぁ、ほんま悪いことしたなって、思い出すたびそう思うねん。
- 父
- なんでぇ。
- 娘
- だってな、心配して、必死で駆けつけてくれたのに、帰るまでずうっと、お父ちゃんなんか嫌いやぁて、泣いてわめいてだだこねて・・・。
- 父
- 昔のこっちゃ。
- 娘
- あ。
- 父
- ん?
- 娘
- こんなとこにコンビニできてるんや。
- 父
- だいぶ前やで。
- 娘
- そうなん?
- 父
- 文具屋の息子がこっち戻ってきてはじめよったんや。
- 娘
- こんなヘンピなトコにコンビニつくって、儲かるんやろか。
- 父
- まあまあ、はやってる。
- 娘
- お父ちゃんコンビニ行くん?
- 父
- わしも、飯作るん面倒な時は行く。
- 娘
- コンビニ弁当食べてんの?
- 父
- たまにやけどな。
- 娘
- 私、いつから帰ってへんかったんやろ・・・。
- 父
- お前はお前のおるとこで頑張ってたらそれでエエ。
- 娘
- ・・・なんで泣いて電話したんか、聞かへんの。
- 父
- そういう事もあるやろ。
- 娘
- ・・・うん。
- 父
- 重(おも)なったなぁ。
- 娘
- 私?
- 父
- ん。
- 娘
- もう大人やもん、あの頃とはちゃうよ。
- 父
- そらそやな。
- 娘
- な、なんで自転車なん?
- 父
- なんでて?
- 娘
- 車あんねんし、車で迎えに来たほうが楽やん。
- 父
- ・・・壊れてまいそうなもんは、自分の力で運ばんとな。
- 娘
- ふーん。
- 父
- そやけど、あの頃とはちゃうわなぁ、ワシも。
- 娘
- まだまだ広いよ、お父ちゃんの背中。
- 父
- そうか?
- 娘
- せや。
- 父
- おいしょ。・・・もうちょっとで家やで。
- 娘
- うん。
- 終わってまた始まる