夕暮れの田舎道。
自転車をこぐ父と、後ろに乗る娘。
なあ、お父ちゃん。
ん。
覚えてる?アタシ小学校ん頃、鉄棒から落ちて、怪我して、
学校まで迎えに来てくれたん。
ん、ああ。
あん時も自転車やった。自転車で迎えに来たな。
せやったかな。
お父ちゃん、うっすいステテコはいて、汗びっしょりかいてるから、それがべったり体に張り付いて、しかも怪我した言うてんのに自転車でて、カッコわるうて、恥かしいてな。
段やで。
え、うん。
二人を乗せた自転車は、ガタンと段差を降りる。
大丈夫か?
平気平気。
ん。
あん時はなぁ、ほんま悪いことしたなって、思い出すたびそう思うねん。
なんでぇ。
だってな、心配して、必死で駆けつけてくれたのに、帰るまでずうっと、お父ちゃんなんか嫌いやぁて、泣いてわめいてだだこねて・・・。
昔のこっちゃ。
あ。
ん?
こんなとこにコンビニできてるんや。
だいぶ前やで。
そうなん?
文具屋の息子がこっち戻ってきてはじめよったんや。
こんなヘンピなトコにコンビニつくって、儲かるんやろか。
まあまあ、はやってる。
お父ちゃんコンビニ行くん?
わしも、飯作るん面倒な時は行く。
コンビニ弁当食べてんの?
たまにやけどな。
私、いつから帰ってへんかったんやろ・・・。
お前はお前のおるとこで頑張ってたらそれでエエ。
・・・なんで泣いて電話したんか、聞かへんの。
そういう事もあるやろ。
・・・うん。
重(おも)なったなぁ。
私?
ん。
もう大人やもん、あの頃とはちゃうよ。
そらそやな。
な、なんで自転車なん?
なんでて?
車あんねんし、車で迎えに来たほうが楽やん。
・・・壊れてまいそうなもんは、自分の力で運ばんとな。
ふーん。
そやけど、あの頃とはちゃうわなぁ、ワシも。
まだまだ広いよ、お父ちゃんの背中。
そうか?
せや。
おいしょ。・・・もうちょっとで家やで。
うん。
終わってまた始まる