- 都会の喧騒
- 女
- ねえ、42型はどう?
- 男
- 大き過ぎるよ
- 女
- 一緒に住むんだし、二人分の大きさ必要じゃない?
- 男
- いや、ベッドだったら分かるけど、テレビだし
- 女
- やっぱりフルスペックハイビジョンが、いい感じしない?
- 男
- うーん、まだ、今のテレビでいいんじゃない? ほら、アキちゃんのテレビ、25型だし。
結構、迫力あったじゃん。まだ、アレで充分だと思うけどなあ。2011年になったら、その時、考えようよ
- 女
- ねえ、トモ君、見て。ニュース
- 男
- え?
- 女
- 殺人犯が逃亡中だって
- 男
- え、どれ?
- 女
- これ。ねえ、この町じゃない?
- 男
- マジで? うわ、ヤバイね
- 女
- その辺にいるかもしれないってことよね、犯人
- 男
- それは怖いなあ。気をつけないと
- 女
- ねえ、ちょっと待って。ねえ!
- 男
- 何?
- 都会の喧騒
- 男
- 「ショウウインドウのテレビは、犯人の特徴をこう告げました。犯人は、帽子のようなものを被り、服装は横シマの柄のシャツを着た、30代前半の男」
- 女
- ねえ、トモ君、それ何?
- 男
- これ? 帽子
- 女
- 帽子?
- 男
- て言うか、ターバンっぽい帽子みたいな?
- 女
- とりあえず、被るのやめたら?
- 男
- ちょっと待って、俺、犯人じゃないよ?
- 女
- 分かってるわよ。間違われたらイヤだから
- 男
- そうだね
- 女
- あと、服も
- 男
- え?
- 女
- 服も、とりあえず
- 男
- いやいや
- 女
- ものすごく横にシマシマしてるから
- 男
- 分かるけど
- 女
- とりあえず、脱いで
- 男
- でも、こんな外で脱げないだろっ
- 女
- そんなこと言ってる場合? 捕まってもいいの?
- 男
- いや、脱いでも、それはそれでまた捕まると思うよ?
- 女
- 脱いで捕まった方がいいでしょっ
- 男
- はあ?
- 女
- 脱いで。早く脱いで!
- 男
- そんな、外で脱いで脱いで言うなよ。おまえも捕まるぞ。おい、あそこにいるおじさんが、すごくこっち見てる
- 女
- え? ほら、やっぱり、怪しまれてるじゃない
- 男
- とりあえず、逃げるぞ
- 女
- え、ちょっと待ってっ
- 都会の喧騒
息を切らした男女
- 男
- ココでしばらくじっとしてよう
- 女
- 逃げたら、余計怪しまれるでしょっ
- 男
- あ、そっか。それを早く言ってくれよっ
- 女
- それぐらい自分で気付いてよっ。あっ、警察
- 男
- え?
- パトカーのサイレン
- 男
- 「結局、帽子のようなものを被って横シマのシャツを着た僕は取り調べを受けました。何もしてないのに。じゃあ、何で逃げたんだって聞かれたんで正直に答えました。逃げたのは、テレビを買う買わないの喧嘩になる前にその場を離れたかったから。つまり、喧嘩の防止(帽子)のようなもので。このまま、話が流れたらいいな~なんて言う横シマな考えがあったからです、と。警察にはこっぴどく怒られましたが、この一件で彼女とは絆が深まり、将来の見晴らしは、ハイビジョン。2011年には結婚生活に移行する予定です」