- 殺人現場。
男と女、事件を推理している。
- 女
- これは、難事件ですねえ。
- 男
- これは、不可解な事件だなあ。
被害者は、どうやって殺されたのか……。
- 女
- やはり、このバットが、事件と関係あるんですかねえ。
- 男
- うーん。
- 女
- このバットで、ひと思いに、ガツンと。
- 男
- んー、確かに、現場に落ちてるという点で、いかにも怪しいが、
ただいかんせん、このバット、プラスチックだろう。
- 女
- あー。
- 男
- 金属バットならまだしも、プラスチックバットで、人は殺せんだろう。
- 女
- だとすると、こっちのフライパンはどうですか。
- 男
- フライパンかー。
- 女
- このフライパンを、被害者の頭に、振り下ろして、
- 男
- うーん……。チャーハンが入ってなければなー。
- 女
- そうなんですよー。
- 男
- チャーハンが、並々と入ってるからなあ。
- 女
- 殴ったら、米がこぼれますからねえ。
- 男
- そんな形跡、どこにもないからなあ。
- 女
- となると、こっちに落ちてる、ゴルフクラブ。
- 男
- うん、うん。
- 女
- これだとほら、人を殴るのに、もってこいですから。
- 男
- まあ確かに、これは、凶器にはなるだろうが、
ただし、被害者はこれ、首を、絞め殺されてるだろう。
- 女
- あー。
- 男
- だから私は、ゴルフクラブとか、そういうのは、一切、関係ないと思う。
- 女
- なるほど。
- 男
- 殴られてないわけだから。
- 女
- となると、犯行に使えそうなのは、このロープ。
- 男
- そうだな。確かにこのロープは、太さもちょうどいいが、
ただしこれは、間違いなく凶器ではない。
- 女
- ええ……。
- 男
- なぜならば、これは、現場保存用のロープだからだ。
- 女
- そうですよねー。
- 男
- 警察が、あとから張ったものだから、これは、凶器ではありえない。
- 女
- じゃあ、結局この、被害者の首に巻きついた電気コードなんですかねえ。
- 男
- そうだね。私ははじめから、これだと睨んでいたよ。
- 女
- じゃあやっぱり、このコードで、何者かに襲われて、
- 男
- ところが、それが、そうとも限らんのだよ。
なぜならば、このコードの両端を握ってるのは、他ならぬ、被害者本人だからだ。
- 女
- うーん。となると、やっぱりこれは、殺人ではなく、自殺……。
- 男
- そうだなー。この、ダイイングメッセージがなければなー。
- 女
- あー。
- 男
- 「犯人は高木」と、デカデカと書いてあるからなあ。
- 女
- じゃあやっぱり、犯人は高木なんじゃないですか。
- 男
- しかし、その高木は、隣で死んでるからなあ。
- 女
- あー、となると、まず高木が被害者を殺して、
のあと、高木も、誰かに殺された、というのは……、
- 男
- いやあ、明らかに、高木の方が先に死んでるだろう。
- 女
- そっか……。
- 男
- 高木だけ、腐乱死体だから。
- 女
- うーん……。
- 男
- あと、不可解なのは、なぜこの高木の腐乱死体が、
今日までずっと放置されてたのか、ということだ。
- 女
- ここ、大通りですからねえ。
- 男
- さらに、なぜ大通りに、チャーハンのフライパンが落ちてるのか。
- 女
- 関係ないですからねえ。
- 男
- そして、この被害者が、どう見ても、地球上の生命体ではないということ。
- 女
- 銀色ですからねえ。
- 男
- また、この頭上の円盤状の物体は、なんなのかということ。
- 女
- ずっと浮かんでますからねえ。
- 男
- 不可解だ……。実に不可解だ。
- 女
- まあ、私たち、刑事じゃないからいいんですけどね。
- 男
- 警察は、どこへいったんだろうか。
- 女
- それも謎なんですよねえ。
- 歩き去る2人。
- END