- ジャンジャン、三味線がお客を呼ぶ
じゃんじゃんお金を使った午前様
- 男
- 驚いた。その横丁入ると猫が三味線弾いていた。
- ジャンジャン
- 猫
- ジャン。と三味線鳴らして呼んでます。
- 男
- 飲みすぎたんだな、いや、そんなに飲んだっけ?
- 猫
- じゃんじゃん飲んだついでにもう一軒。めざしは5匹で200円。
いらしゃいいらしゃい。
- 男
- 猫が三味線弾いている…
- 猫
- 入るの?入らんの?
- 男
- 猫が三味線…
- 猫
- 飲み屋の亭主がうるさいねん。スキ狙って入らなつまみだされるで。だから入るの?入ら
んの?
- 男
- 猫が…
- 猫
- あかんのか?猫が三味線弾いたら。
- 男
- あかん、ことはないけど、いや、駄目だろ。相当駄目だろ。
- 猫
- なんで?
- 男
- -えー…と。
- 猫
- いい音出してます。腹のソコから。ジャンジャン、ジャンジャン。
- 男
- そうだ、だってその肉球で、どうやってゲンを押さえる?
- 猫
- こうやって。
- 男
- ああ、うまいもんだね。
- 猫
- この仕事一筋やから。
- 男
- 違うんだよ。納得したけど、こういう会話したいんじゃないんだよ。酔っ払ってるだけな
のか、こういうイベントなのか、えーとね、
- 猫
- お客さん、どっから?
- 男
- え?
- 猫
- 仕事?
- 男
- 出張で。
- 猫
- あぁ、ゴクロウサマ。一匹で?
- 男
- へ?
- 猫
- 1人で?
- 男
- ええ、まぁ。
- 猫
- ならしゃあないわ。
- 男
- え、それどういうこと。この地元じゃこれは普通か?
- 猫
- 狭い日本もまだまだ広いわぁ。
- 男
- ご当地名物だと思えばこの酔いも冷めるもんか?
- 猫
- ジャン。熱燗ぬるめにしてあるし。いらしゃい、めざしは5匹で200円。お値段
はるけど鳥生肉だってあるし。
- 男
- はぁ…
- 猫
- たまには隣の誰かさんと世間話でもせな。あぁ、いやいや、いやいや、分かる、分かるわ。
- 男
- えぇ?
- 猫
- あぁ、いやいや、じっと見てるから、たまーに分からんくなる時あるわ。さっさか歩く黒い
頭見下ろして、じっと見てたら、歩いているのは自分みたいに思えてきたりする時あるも
ん。見てたらおもろいからなぁ。泣いたと思ったら怒ったり笑ったり、くるくる変わるの
はアタシらの目やなくて、人の感情のほうや。じっと見てたら、自分が猫やってこと忘れ
そうになる。だって、絶対人のほうがおもろそうやもん、なぁ~。
- 男
- …え?
- 猫
- なぁ、あんたも。三味線持っとき。ジャンジャン鳴らすたんびに思い出すから。腹のソコから
- 飲み屋の戸がガラリと勢いよく開くと
バケツに入った水がぶちまけられた
頭から水をかぶって、
猫が二匹、鳴きながら路地を逃げていった
- おしまい