- 女
- 何コレ。
- 男
- 何だと思う?
- 女
- 開けていい?
- 男
- おう。
- 女
- …ねえ、どうして?
- 男
- 何が?
- 女
- プレゼント。
- 男
- ああ。
- 女
- 今日、何の日でもないよね。
- 男
- そうだね。
- 女
- じゃあ、何でくれるの?
- 男
- そこに、君がいるから。
- 女
- 何それ。
- 男
- え、『そこに山があるから』って、知らない?
- 女
- 知らない。え、山って関係ある?
- 男
- 山は関係ない。
- 女
- じゃあ、何だろ。ねえ、コレ、開かない。
- 男
- 貸して。
- 女
- かたむすびになってる。かたむすび、関係ある?
- 男
- 関係ある。
- 女
- あるの。
- 男
- …はい。
- 女
- ありがと。あ、ほどけた。
- 男
- 今日は何の日でもないから、何かの日にする?
- 女
- え? あっ、何コレ…オルゴール!?
- 男
- 聴いてみて。
- オルゴールのぜんまいを巻く音
音楽が流れる
Aメロが始まると、突然、男が歌いだす
- 男
- ♪美奈子さん~結婚しよう~
- 女
- ♪ああ~夢みたい~
- 男
- ♪これからの人生もかたむすびで行こう~
- 女
- ♪幸せ~もう死んでも構わない~
- 突然、音楽が止まり、心電図の止まる音(ピー)
- 女
- 美奈子ちゃんっ、美奈子ちゃんっ。
- 男
- 奥さん、残念ながら…。
- 女
- 先生…。
- 男
- 娘さんの顔を見て下さい。とてもいい顔をしてます。
- 女
- ええ…それは何よりの救いです。この機械のおかげです。
- 男
- そう言っていただけると、私も発明した甲斐があります。
- 女
- コレを使えば、誰でも悔いのない人生を…?
- 男
- ええ、データが揃えば誰でも自分の人生に納得して死んで行けます。
- 女
- どんな感じなんですか?
- 男
- と言いますと?
- 女
- 娘は最後にどんな世界を見ていたんでしょうか。
- 男
- 最後はミュージカルのように華やかな舞台で人生の幕を閉じます。
- 女
- そうですか…でも、やっぱり、生きている間に納得したいですね。
- 男
- それはもちろん、そうですよね。
- 女
- 先生は悔いのない人生を送っておられますか?
- 男
- ええ、私は、この機械の発明が成功して満足しています。
- 女
- ♪発明が成功しておめでとう~よかったですね~
- 男
- え?
- 女
- ♪人生に納得出来て~よかったですね~
- 男
- 奥さんっ。
- 女
- こんな感じですか?
- 男
- 何ですか、突然…。
- 女
- ミュージカルのようにっていうのは、今の感じですか?
- 男
- ええ…あぁ、びっくりしたぁ…私、死んだのかと思った。
- 女
- 何をおしゃってるんですか。
- 男
- いや、でも、よかったです。
- 女
- え?
- 男
- 歌えるくらいの元気がおありで。
- 女
- 元気はないですけど、気分的には救われています。この機械で。
- 男
- 光栄です。
- その時、部屋の時計が時報の音楽を奏でる
- 女
- あ、もうこんな時間…。
- 男
- いやあ、それにしても…。
- 女
- それにしても…?
- Aメロが始まると、突然、男が歌いだす
- 男
- ♪娘さんが安らかに眠れてよかったですね~
- 女
- ♪ほんとよかった~それだけが心残りだったのよ~
- 男
- ♪後悔のない人生を~
- 女
- ♪もう悔いはない~死んでも構わない~
- 突然、音楽が止まり、心電図の止まる音(ピー)