- 女
- ひとしひとしー
- 男
- ムニャムニャムニャ(寝ぼけている)。
- 女
- ひとしー、起きてひとしー
- 男
- 姉ちゃん・・え、なに、もう朝?
- 女<
- ひとしー、メダカが大変なんだよー、早く起きて。
- 男
- 何時、今。
- 女
- 四時。
- 男
- また朝帰りかよ、酒クセエな。
- 女
- メダカが、死んじゃったの。
- 男
- なんで?
- 女
- 帰ったら、水槽の水がカラッポだったの。
- 男
- は?
- 女
- きっと、妖怪のしわざよ。
- 男
- んなわけねーだろ。
- 女
- 妖怪が、水槽の水、飲み干しちゃったんだよ。
- 男
- オレ、朝一で授業なんだって、寝かせてくれよ。
- 女
- ねーお願い手伝ってよ。パパさんとママさんのお葬式してあげなきゃ。
- 男
- もう死んでんだから。朝までほっとけよ。
- 女
- 可哀想じゃない。ねー部屋来て、パパさんとママさん出してよー。
- 男
- それくらい自分でしろよ。
- 女
- できない。死んだお魚、怖いもん。
- 男
- ああ、もう、訳わかんないことばっか言いやがって!行けばいいんでしょ、行けば。
- 女
- うん。
- 男
- 「姉ちゃんは、当時、彼氏だった男からメダカをもらった。別れた後、叶わなかった甘い結婚生活をダブらせるかのようにメダカに執着しはじめた。出窓に置かれた水槽には青々と水草が繁り、専門的なグッズや本も増えはじめた。性格はグシャグシャだけど、案外、魚育てるのは向いてるかも、と思った矢先にこの事件だ」
- 女
- ほら見て、水槽がカラッポでしょ。
- 男
- あーあー、床がびしょびしょだよ。ヒビが入ってんじゃないの?んで、そっから水がもれたんだよ。
- 女
- ヒビなんか入ってないよ。きっとあの女の嫌がらせよ。
- 男
- あの女?
- 女
- あいつの彼女よ。絶対そうに決まってる。
- 男
- バカ。元カレの彼女が、わざわざ水槽の水カラッポにするために、忍びこんでくるわけねーだろ。
- 女は、くみ置きしていた水を水槽に注ぎはじめた。
- 男
- 姉ちゃん、やめろってヒビが入った水槽に水入れてどうすんの。
- 女
- ヒビなんか入ってないー。あの女が嫌がらせしに来たに決まってるわ。私がここでささやかに、幸せな家庭を築いているのが許せないのよ。嫉妬してるのよ。あの女は、全てを手に入れたくせに、
- 男
- もうよせって(水を取り上げる)。・・・頭おかしいフリすんのやめろよ。
- 女
- うえーん(泣)・・・パパさんママさん、ごめんね。
- 男
- ・・・姉ちゃん、見ろよ、生きてる、メダカ、泳いでる!
- 女
- うそ・・・あ・・・どうして?
- 男
- 多分底の方に水が残ってたんだよ。良かったなぁ。
- 女
- えへへ、生きてた、生きてる。
- 男
- やべえ、やっぱ水もれてるよ。ヒビだよヒビが、ほらここんとこ。
- 女
- バケツ、バケツ取ってくるぅー。
- 男
- 「メダカ夫婦は、今も元気だ。困るくらい元気だ。ばかすか卵を産んで、姉貴は嬉々として育ててる。」
- 女
- ひとしー、あんたの部屋に水槽もう一個置いていい?
- 男
- 「我が家がメダカに占拠される日も近い。」
- 終わってまた始まる