学生時代の話です。
私はこの時間が好きだった。彼のアパートに入る前、アパートの近くのコンビニで彼がコンドームを買うのをまっている時間が好きだった。私はコンビニの前にある公園で一人彼を待っている。
駆け寄る足音がして。
「買ってきたよ」
「今日は何を買ったの?」
「コンドームと、アポロチョコレート」
コンドームしか買うものがない時、彼は決まって何かついでに買ってくる。私はその「ついで」に買われたものが好き。チョコとかビールとか。
駆け寄る足音がして。
「買ってきたよ」
「今日は何を買ったの」
「コンドームとハンドタオル」
駆け寄る音がして。
「買ってきたよ」
「何?」
「コンドームと白玉あんみつ」
駆け寄る音がして。
「買ってきたよ」
「何?」
「コンドームとシャーペンのしん」
駆け寄る音がして。
「買ってきたよ」
「何?」
「コンドームしか買わなかった」
「・・・そう」
かぐや姫「神田川」イン。
別に寂しい気持ちになることはありませんが、その時なんとなく寂しかったです。
私がどうして何も買わなかったか聞くと、
「だって、必要なのはコンドームだけだろ」
どうしたんだろこの人って思いました。そんなところで大人になられても。彼の部屋にいくと就職活動の資料請求の書類に埋もれて、彼の履歴書がありました。そこに張られた写真は私の知らない彼でした。
「お前、ガイダンスでてないんだって?」
「うん」
「どうすんの。就職」
それは大学三回生の冬。コンビニおでんが美味しい季節。色んななんとなくが重なって、彼も遠い思い出です。
おわり