- キイチ
- (メールを入れながら)
「・・・この・・・メー・・・ルを・・・読ん・・・だら・・・、返信・・・ちょ・・・うだい・・なー、久し・・ぶりや・・・・けど愛し・・・てるよー・・・。」っと、送信!
(車の急ブレーキ音。はねられる音)
- ナミ
- 全ての愛が、偶然ならば私は偶然に感謝しなければいけない。
全ての死が、偶然ならば私は偶然を恨まなければいけない。
思わぬ偶然で、あなたに出会い。
わかりかけてた偶然で、あなたと別れ。
私は大事な人を失った。
この手の中でぬくもりを感じることなく、大事な人を失った。
今更ですが、あなたに手紙を送ります。
「キイチ、天国はどう?あの日、キイチは会社に行くとき玄関でうちの名前を呼んだよね。うちは見送るのがめんどくさくって、横になったまま、聞こえないふりをしててん。三年前やったら見送ったのに。結婚して八年。いつも一緒にいることに慣れてしまって、喧嘩も多くなって、子供も出来て、二人で向き合うこと少なくなって、小さな愛を忘れてた。キイチはあの日私を呼んで何を言おうとしてたん?自分が死ぬのわかってたん・・・?なんとなく嫌な予感がしたから、私の名前を呼んだん?後でメールで聞こう思うてんけど、あの時充電が切れててん。ごめんね・・・。本当にごめんね・・・。うちがあのとき玄関に行っとけば、キイチは事故にあわずにすんだかもしれへん。玄関に行っとけば、たった一秒出るのが遅くなって、キイチは生きてたかもしれへん。私の愛がもっとあれば・・・。許して言うても許してくれへんわな。うち今更やけど、・・・あんたのことめっちゃすきやってん。あの時結婚したときみたいに玄関にいっとったら。普段からもっとキイチの事、大事にしてたら。戻れるなら、出会った日に戻りたい・・・。生まれ変わっても、そばにいてください。キイチ。お願いやからそばにおってな。・・・子供達は、うち頑張って、育てるから心配せんといてな。天国でゆっくり待っといて。子供ら見守ったって。ごめんな、キイチ、今までありがとう。これからもよろしく。」
届くはずのない手紙は彼の棺に入れました。
式の三日後ふと私はあの日から電源を入れることがなかった、携帯の電源を入れたら、一通のメールが届きました。それは、天国の彼からのメールでした。
- キイチ
- 「奈美、一度二人でどこかに行かへんか。結婚して八年。子育ても大変やけど、一緒に二人で温泉でも行こう。今日、出かけに言おうと思ってん、だけど呼んでも返事なかったからメールした。このメール読んだら、返信ちょうだいなー、久しぶりやけど愛してるよー。」